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「それで、これからどうする?」
優弥は和輝への視線を全体へ変えると、抑揚の無い声でそのまま質問を投げかけた。
それに対する答えは決まっている。
「まずは瞬の家に行くんだろ?」
和輝が来るまでの間に問題が発生していなければ、瞬の家に行き、女性達からの話を聞くのだ。
その予定でここに集まったのだから訊くまでも無いのだが、会話に夢中だったりで誰も先に進む気配が無いと、たまに優弥はこういう発言をする。
いい加減早く行こう。という内心が見え隠れしている気がする。
それに同調して、ポニーテールの女性が風鈴のように暑さを梳いて発言した。
「そうね、そろそろ行きましょうか……貴方、何か買って行かなくて良いの?」
そうして流れるように見られた和輝は思わず目を逸らすしかなかったのだが、質問にだけはハッキリと答える。
色々考えてきたせいか喉の渇きを覚えていたが、今は自分一人のために時間を割いてはならない気がした。
「や、俺はいいよ。待たせたみたいだし」
「んじゃ行こ行こ!」
我先にと街灯の外へ飛び出す舞を皮切りに、一行は御堂瞬の自宅へと赴く。
コンビニの脇道から右に入って、右と左の曲がり角を数回。
ここからそう遠くはないと聞いたが、夏の暑さでの渇きもあってか、和輝には妙に長い道のりに思えた。
女性二人と少しでも長く歩きたいがために、瞬がわざとこの道を選んでるのではないかと思う程複雑だ。
何にせよ、一回で覚えるのは難しいだろう。
周囲には住宅が並んでいるが、どれが彼の家かは判断できない。
瞬の家に来るのは、和輝もこれが初めてだ。
恐らく優弥も同じだろう。
大した理由は無さそうだが、瞬は何故か遊びの時でさえ自分の家を指定したがらない。
「……あれ?」
そうだよな、と優弥に確認しようと振り向いたのだが、彼の姿が見当たらない。
記憶が正しければ、彼が一番最後に歩き出して一度も和輝の前を歩いていないはずなのだが。
「どうしたー?」
「や、優弥が……」
前方で楽しそうに女性二人と喋りながら歩いていた瞬がこちらを振り向く。
優弥が暗闇からのそっと出て来たのは、まさにその会話の直後だった。
「居るじゃない」
ポニーテールの女性が不思議そうに呟く。
舞は笑いながら和輝越しに優弥を見た。
「そんな暗い服着てるからでしょー? 同化してるんだって! 夜と」
確かにな、と和輝も改めて優弥の服を上から下まで見直し、彼に訊いた。
「何処行ってたんだよ」
「ん? いや済まん、ゆっくり歩いてたら見失ってな」
訝し気に和輝は喉を唸らせたが、それ以上は聞かない事にした。
今の発言が全くの嘘ではないと思わせる程、優弥は普段からこういう人間なのだ。
それからまたしばらく細道を歩いている中、先頭の瞬が最後尾の優弥にまでハッキリと聞こえる声を出した。
「着いたぜー!」
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