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 この辺りは夜中になると想像以上に暗く感じる。

 街の中央部に住む人間にとっては余計にそう思うだろう。

 その理由の一つとして、この近辺に森林が広がっている事が挙げられる。

 住宅街などその緑たちに比べれば存在する面積は微々たるものであり、その家々を繋ぐようにして街灯は有るものの、簡単な点繋ぎのパズルのように、または数字を覚えたての子供でも数えきれるほどしか見当たらない。

 そんな緑色の砂漠の中に、ハッキリとしたオアシスのように、それらは鈍く眩い光を放って存在している。

 和輝は二つのオアシスの内、より小さい方へと歩みを進めた。

 もう少し正確に言うなら、二つの間だ。

 そこに、街灯の下に照らされた、覚えのある四人の影が見えたからだった。

「お、来たな」

 街灯から自分の身長の三倍程離れた位置まで辿り着いた時、四人の中の一番背の高い男が、そう呟くのが聞こえた。

「遅いぜー相田っち!」

 続けざまに明るい茶髪が揺れ動く。

 人の気苦労も知らないで……と少し思ったが、まぁ何も言わずともこちらの心中を察してくれというのも無茶な話か。

 瞬は明るい色の半袖に短パンと、まさに夏らしい格好だ。

 特別な興味が有る訳でもないのだが、学校外で会うと他人の私服が気になってしまうのは和輝のどういう作用が働いているのだろう。

 特に、女性に対してそう思ってしまう。

「うっす、相田っち! 夕方ぶりねー」

 瞬の口調を真似る、輪の中で一番背の低い舞も、右にならって瞬より短めのショートパンツに上は二の腕までの花柄ブラウス。

 白い肌が露わなのが目に毒だが、動き易そうな服なのはこれまでの舞の言動にピッタリだ。と和輝は思う。

 そんな舞とは対照的に、彼女にまひろ、と呼ばれていた女性はジーンズに黒無地の長袖シャツと上から下までしっかりと肌を守っている。

 学校で会った時とほぼ変わらない服装の筈だが、何と言うか、必要最低限の部分しか見せないその服装は彼女らしい独特の雰囲気を醸し出していた。

 だが、それよりも、だ。

「……俺はこれが一番楽なんだ。いつも言ってるだろ?」

 こっちはまだ何も言ってないんだけどな。と思いつつ和輝は優弥を見遣る。

 彼はこの夏真っ盛りに差し掛かろうという気温で長袖に長ズボン。

 まひろと同じように見えてこちらの方が暑そうなのは、恐らく大き目のサイズで厚手そうだからだ。

 暗めの色は優弥の威圧感をより増大させているだろうし、ヨレ気味なのが普段着も普段着だというのを明らかにさせているだろう。

 腕まくりをしているのが和輝の目にとって唯一の良心と言えたかもしれない。

 こうして見てみると、服でも性格が出るんだろうか、と和輝も思わざるを得なかった。

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