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乗っかりたいところだが、前の罵倒の仕方が仕方なのでどうにも子供のやっかみにしか聞こえない。実際そうかもしれないが。
「お前に言われたくないな……」
これも実際には瞬の方が圧倒的に女に声を掛けているので、和輝の方からも今度は瞬の側で反論することは何も無い。
優弥は事も無げに手元のコンビニ袋を弄んでいる。
「彼女でも作れたら有難いお言葉として聞いてやるよ」
「それが出来てたら肝試しなんて誘わねぇよ!!」
また始まった、と和輝は溜息を吐いた。
この二人が揃うと毎度のこと言い争いが始まる。
争いと言っても瞬の一方的な言い掛かりを優弥が軽く往なし続けるだけだが。
仲が良いのか悪いのか、優弥の方からちょっかいを出す事も有るのでどちらが悪いとも言い出せない。
この二人が言い合いを始めたら決まって和輝は事の成り行きを見守るくらいしか出来なかった。
「肝試しに誘うのに交換した連絡先二十件! その内突然ブロックされた件数十五件!! 何でどいつもこいつも期待だけさせんだよチクショオ!!」
努力する所を間違えている気がする。
というか、そういう面を見られて避けられてるんじゃないか?
「おい瞬」
優弥が横目で瞬を捉えて声をかける。
瞬をというより、和輝は瞬と自分の二人に声をかけられた気がした。
「大体な、顔面だけで生きていけるお前みたいな奴にはこの苦しみがわからねぇんだよ!」
「あぁ、瞬」
生返事をしつつ優弥は瞬を呼ぶ。
困ったような表情の優弥と視線が合う。
優弥は和輝の後ろを顎で指しているようだった。
最初は何の事か解らなかったが、後ろを振り向いてみると優弥の言わんとすることがすぐに理解できた。
和輝も流石にと彼を気付かせようとする。
「なぁ瞬、今こっちに……」
「何なら残った五人の連絡先教えてやるから同じ苦しみを味わうか!? あーっと
「ねぇ」
不意に掛けられたその一声でようやく瞬の言葉は遮られた。
それは瞬よりもかなり小さかったが、誰とも被らないとても澄んでいて穏やかな声で、一声だけだが和輝にも良く聞き取れた。
固まった瞬の視線の先には、先程目の前に座っていたあの二人組が立っている。
「行くんでしょ? 今夜」
こちらが瞬に気を取られている間に、いつの間にか移動して来たようだ。
話し掛けて来たのは、赤茶のポニーテールの方だった。
今の今までのこちらの争いを意に介していない様子で、穏やかな口調の中にはどこか涼しさと儚さが混じっているように感じる。
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