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「こっちこっち!」

 解ってる。って言うか今、目が合ってるだろ?

 周りよりも数段上の音量で語り掛けたその明るい茶髪の男は、箸を持ったまま席を立って手招きする。

 それを呆れ顔と言うか、何やってんだと隣で見上げて軽く睨み付けている長身の男にも見覚えが有る。

 前者が『特に垢抜けた様なヤツ』で、後者が『朝まで酒の付き合いをした』男だ。

 明るい髪の男は、長身の男に服の裾を引っ張られて勢い良く椅子に引き戻された。

 その眼前のトレイにはデカデカと皿に乗せられた鮭、ご飯、スープにお新香。

 どうやら本日の日替わりは鮭定食のようだ。

 対して和輝より明らかに頭身の高い男の前には菓子パンの袋が一つだけ。あとは手元の紙パックのジュースと随分なスペースの差が出来てしまっている。

シュン……来てんなら返信しろよ」

 蛍光色に艶を入れたような髪の瞬は歳の割には幼い顔つきでへラッと笑って箸をくわえると、右手だけ「ごめん」のポーズを取った。

 まぁ、元からこういう奴だ。

 お調子者と言うか、とにかくノリが軽い。

 寝坊したとか言っていた割に、和輝よりやや短めの髪もキチンとセットされている。

 邪魔そうにしている前髪をヘアピンで留めているのもいつも通りだ。

「何で俺に送ってきたんだよ」

 和輝も溜息混じりに先の連絡のことを問いながら、長身の男と挟んで隣に座った。

 仮に同じ講義の友達に『代わりに出席頼む!』と送ったところで、あんな中途半端な時間ではどうする事も出来なかったと思うが。

「いやーわりぃわりぃ! テンパって一番上のヤツに送っちってさ。でもま、犠牲になったの二限だけで良かったよな。なー優弥ユウヤ!」

 優弥、と呼ばれた長身の男は当たり前のように返事をしなかった。

 それどころか、パックのジュースを吸いながら片手で携帯を弄っている。

 目の下のクマも相まって、返事をしないだけで妙な威圧感さえ出していた。

 優弥の瞬に対する扱いも見慣れたものだ。

 仮に今の優弥の心中を代弁するなら、「知らねぇよ」か「そのまま留年してしまえば良い」だろう。

 何と言うか、一言で表すなら雑、なのだ。

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