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 その友人からの着信は、結局授業が終わるまで届かなかった。

 一度送るとその後の返信が気になってしまうもので、チャンスが有ってはチラチラと自身の携帯を見ていたのだが、それを繰り返す事十五回を過ぎた辺りで終了の鐘が鳴り響いた。

 そのせいか暑さのせいなのか、はたまた昨夜のゲームに熱中し過ぎたせいなのかは定かでは無いが、今日はとにかく授業に集中出来ない。

 そもそも高校に比べて倍近く伸びた講義時間はどうしても耐え難いのだ。高校の時ですらそれを解決できなかったというのに。

 肝心の連絡相手からの返信は未だにない。

 送るだけ送ってあとは放置、とは良い度胸だ。

 和輝は広げたノートとペンを手早く纏めて鞄に詰め込むと、友人を探すために教室を足早に出た。

 別に探してやることもないのだが、たった今既読になったのを見ると二度寝している訳じゃないようだし、大学からそいつの家は比較的近い。講義一本も有れば余裕で間に合うだろう。

 今の鐘が二限目の終了合図。この昼休みに現れるなら、きっと食堂へ向かうはずだ。

 そう見当をつけて、階段を目指した。

 食堂へ行くにはまず一階へ降りなければならない。

 そこで連絡の件を茶化しながら飯でも食べよう。どうせ暇だ。

 和輝は人の押し寄せる廊下を掻き分け、前へ前へと進む。

 これはただの個人的な感想なのだろうが、二、三人が横に大きく幅を取ってゆっくり歩くのは是非止めてほしい。避ける労力が余分にかかる。

 何となく急ぎ足に階段を降りた和輝は、学棟の外に出た。

 朝に比べると強い日の刺激が視界を襲った。

 元々インドアの生活を送っているから、もうこの目の奥に来る鈍痛にも慣れっこだ。

 それでも木陰から中々出られないのは、やはりインドアが原因なのかもしれない。

 ここを真っ直ぐ横切ればお目当ての食堂に辿り着く。

 そこへ入っていく人混みの中に、見覚えのある派手な明るさの茶髪を見かけ、和輝は彼が来ていたことを改めて知った。

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