一章:呪いの何とか

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 相田アイダ和輝カズキは至って平凡な青年だった。

 小さい頃に何かを視た事などは……無い。

 最近になって不可思議な体験に遭遇した事も……無い。

 友人知人からそういった話を聞いた事も無い。精々風の噂だとか、ネットで偶然閲覧しただとかそれくらいだ。

 何かの異世界めいた能力を持っているのかと問われれば、勿論そんなことも全くない。

 地元でも平均より少し下と言われる高校を卒業し、同じ位の評価の大学にこの春入学した。

 入学するに当たって少し髪色を明るくしてみたが、いざ始まってみればそれも周りと比べてほんの少しの抵抗でしかなかったようだ。

 最初は整えていた癖毛も、段々日が経つにつれて気にするのが面倒になった。

 怠そうな顔は昔からだが、最近酷くなった気がする。

 それもこれも大学という新しい出会いの場と、一人暮らしの新生活に浮かれきっていたからだろう。

 勿論そんな簡単に変化が訪れる訳はない。まだ数箇月の大学生活だが、結果を見れば高校の頃と何も変わってはいない。

 だが和輝カズキは、そんな事については然程悩んでいなかった。

 別に目立たなくても良いじゃないか。

 変に悪目立ちするよりも平凡に、それとなく過ごせればそれで良い。そのついでにちょっと楽しい友人に出会えれば充分だ。

 高校に入学する時に既に学んだ。

 思えばあの時も、似たような期待に囚われていた気がする。

 いざ卒業してみれば……いや、卒業してみても平凡な日常に変わりなかった。

 彼女だって一人として出来ていない。

 最初に高望みし過ぎない方が後々の後悔も少ないのだ。

 思春期にありがちな、妙な達観を持った思考。代わりと言っては何だが、人付き合いは良い方だと自分でも思う。

 大学に入学して一週間くらいに一つ上の先輩と仲良くなれたのもそうだが、その日の内に朝まで酒の付き合いで愚痴を聞かされるとは思ってなかった。

 未成年の和輝がアルコールを摂取することはなかったが、だからこそ良く一晩付き合えたな、とその日の事を度々思い出し、同じ学部の友人に語ったことはある。

 そんな友人の一人である、特に垢抜けた様なヤツがいるのだが、今日はまだ登校していないらしい。

 らしいと言うのはそいつから『寝坊した!』とわざわざデジタル文字で連絡を送り付けて来たからなのだが、違う学部の自分にそれを言われても正直困る。

 何を期待して連絡をしてきたのかは知らないが、そっちの点呼の取り方も知らないし、そもそもどうしようもない。

 仕方無く『もう始まってるぞ』と返信してみたが、その後の返信が来ないところから効果が有ったのかは判らない。

 そんな事より、和輝の頭の中は残り十分強の講義時間をいかにして凌ぎ切るかを考えるので精一杯なのだ。

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