02 幼馴染の恋が許せない


「ねえ、瑞希みずきに好きな人が出来たらしいんだけどっ」


「あーはいはい」


 放課後、カフェに友人の田中沙智たなかさちを誘い、このビッグニュースを報告していた。


 しかし、その相談相手はこの一大事件に対してこの反応である。


 薄すぎるっ。


「なにその冷めた態度っ」


「いや、だって呼び出された時にその事で相談あるってもう聞いてたし……」


 確かにラインで、事のあらましは伝えていた。


 いたけど、それにしたってもうちょっと驚いてくれたっていいじゃないかっ。


「わたしが瑞希のことをどれだけ想ってるか知ってるくせに、よくそんなこと言えたねっ!?」


「あー……まあ、嫌ってほど聞かされてはいるけど」


 沙智さち瑞希みずきと同じ幼馴染で、わたし含め三人共に同じ高校に進学するくらいの仲良しだ。


 そして同時に、瑞希に対する恋心をずっと相談し続けてきた相手でもある。


 そんな彼女が、この衝撃を共感できないわけがないのにっ。


「だったら、分かるでしょ。わたしのこの心の傷がっ」


「うーん、まぁ……分かるような気はするけど」


「分かってる人の態度じゃないっ」


 とにかく沙智はいつもクールでドライだ。


 だからこそ客観的な視点で話を聞いてくれて、アドバイスもしてくれる沙智に相談してきたわけなんだけど。


 今日はまた一段と反応が乏しくて悲しいっ。


 もうちょっと寄り添ってくれもいい気がするっ。 


「いや、だって……まあ、いいや」


「なに、言おうとしたなら最後まで言ってよ」


「うーん。いや、瑞希は誰のことを好きになったんだろうねぇ?と思って」


 いきなり話を前に進める沙智。


 容赦がない。


 そんな本質の話より、わたしの感情に寄り添って欲しいだけなんだけど……。


「知らないし、知りたくないっ」


「考えなよ」


「なんでさっ、そんなこと考えても悲しくなるだけじゃん」


 わたしは幼い頃から瑞希に憧れ、好ましく想っていた。


 この感情が恋心だと気付いたのは割と最近のことだけれど。


 そうして募らせてきたこの想いを、どこの馬の骨とも知れないヤツに踏みにじられようとしているんだ。


 考えたいわけがない、わたしが求めているのは心の癒しなのだ。


「あんたが奥手で瑞希にさっさと告白しないから、こうなったんでしょ」


「んなっ……出来るわけないでしょ!?」


「なんで?」


「なんでって……」


 幼馴染として、友人として過ごしてきたわたしたち。


 そんなわたしが突然、恋心を持っていたなんて知ったらどう思う?


 それに何より、わたしたちは女の子同士なのだ。


 もしかしたら友人関係すら、壊れてしまうかもしれない。


「あんたが瑞希を好きで大事に思ってるのはよく分かってるけどさぁ」


「だったら、そんな軽々しく告白なんて……!」


「でもそれ、瑞希だって一緒でしょ?」


「……うっ」


 そりゃそうだ。


 瑞希だって女の子で、いつか誰かに恋をする。


 その恋に、わたしがどれだけ想いを募らせていたかなんて関係ない。


「だからさ、瑞希の好きな人が誰か考えなよ」


「だから、なんでそうなるっ」


 だとしても、そんなわたしの心を抉る行為をなぜ進める!?


「いや、私はそこに答えがあると思ってるんだけど」


「はあ……?」


 瑞希の好きな人を見つけるのが答え?


 ちょっと強引過ぎないか……?


 だけど、他でもない沙智のアドバイスなので頭を捻らせる。


「……はっ。そういうことか」


「分かった?」


 心なしか、沙智は嬉しそうな表情を覗かせる。


「分かった。つまり、瑞希の好きな人を見つけ出して、その恋を阻止すればいいのねっ!?」


「あ、いや……そうじゃなくて……」


「そうだ、前にね瑞希が男子のこと話題に出した時があったの。そいつが怪しいわ、そうに違いない!」


 そうと決まれば早速、行動開始しなければっ。


「ありがとう、沙智。わたし、瑞希の恋を必ず食い止めて見せるねっ」


 立ち上がり、レシートを持って会計を済ませる。


 わたしの相談なので、ここはわたしの驕りだ。


 颯爽とカフェを後にする。




「……いや、話しちゃんと聞けって」



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