幼馴染に好きな人が出来たらしいが、百合を愛するわたしはその恋を認めない

白藍まこと

01 幼馴染に好きな人が出来た


「私ね、好きな人がいるの」


 青天せいてん霹靂へきれき


 そんな難しい言葉が頭をよぎった。


 要するに、寝耳に水とか虚を突かれるとか、そんな意味らしいんだけど……。


 いや、もっと簡単に言うとマジでビックリしたということだ。


 最初からそう言えよと自分でも思ったけど、そんな普通の言葉も出ないほどに……


「ま、まま、マジで……?」


 わたし夏美佳珠羽なつみかずはは衝撃を受けていたのだ。


「うん、本当。驚いた?」


「いや、そりゃ驚くし。瑞希みずきからそんな話聞いたことなかったし……」


 なぜかと言えば、幼馴染の黒瀬瑞希くろせみずきは今までそんな浮いた話をしてきたことがなかったからだ。


 だから、油断していた。


 高校入学をきっかけに、瑞希が女に目覚めてしまうなんて。


 本来、それは幼馴染で親友であるわたしは素直に喜び応援するべきだと思う。


 でも、それが出来ない理由がわたしにはある。


「そうだよね。でも、だからこそ佳珠羽かずはには聞いて欲しかったの」


 瑞希は艶やかな長い黒髪に、黒縁メガネ。


 わたしの栗色のミディアムボブのような軽薄さ一切ない。


 それに背は高くて、白い肢体はすらりと伸びている。


 普段は内気で顔を隠すような彼女が、今日はそのメガネの奥から真剣な眼差しで熱い感情を垣間見せている。


 こんな姿、今まで見たことない。


「へ、へぇ……。それって、どんなヤツなのよ」


 知りたい。


 瑞希のハートを射止めた存在を。


「いや、それは言えない……」


「えっ、なんでっ」


「だって……その人に断られたら、恥ずかしいでしょ」


 もうフラれた時の心配?


 しかも、その時の友人目線すら気にしている!?


 どれだけ引っ込み思案なの瑞希ちゃんっ。


「……ぐっ、ぐぐっ」


「……佳珠羽?」


 ああっ、でもそこが奥ゆかしくて可愛らしい。


 今日も最高だよ、あんたっ!


「わ、わかったよ。瑞希……。わたし、応援するからさ」


「うん、ありがとう……」


「でも、まだ告白はしないの?」


「そうだね、まだ勇気出ないかな……」


 よしよし、するなっ。

 

 絶対にするなっ。


 わたしは心の中でガッツポーズをとる。


 ちなみに瑞希の恋を応援をする気持ちは一切ない。


 出来るわけがない。


「ちなみに……なんだけど……」


「ん?」


 急にモジモジしはじめる、瑞希。


「佳珠羽は好きな人、いないの……?」


「え、わたし……?」


 いや、友達の好きな人を聞く時の方が頬を赤らめるってなに?


 自分が気になる人の報告の方がよっぽど恥ずかしくない?


 相変わらず分かりにくい子だねぇ……。


 ま、それもまた可愛いんだけどっ。


「いるよ、わたしも」


「あ、いるんだ……」


 そこで、心なしか返事の声に張りがなくなるのは何なんですかね瑞希ちゃん。


「私も、佳珠羽が好きな人いるなんて知らなかった……」


「あー。言ったことなかったもんねぇ」


「……隠してたの?」


 どうして、そこでジト目を向けて来るのかな?


 いや、きっと瑞希の方から打ち明けてくれたのに、わたしがその流れで何も言わなかったのが許せなかったのだろう。


 確かに、友達同士で秘密は良くない。


 ごめんね、瑞希。


「隠してたわけじゃないんだけど、どうせ叶わぬ恋だから言えなかったていうかさぁ……」


「そ、そうなんだ……」


 そう、わたしの恋はきっと叶わない。


 それが今まさに確定しようとしているからこそ、より言えなくなっていたんだ。


「佳珠羽の好きな人は、教えてくれないの?」


「うーん、瑞希が教えてくれたら教えてもいいよ?」


「いや、それは……」


 ふふっ、そうでしょそうでしょ。


 こんな交換条件は恥ずかしがり屋の瑞希は飲めないだろう。


 どっちにしたって、わたしの好きな人を教える気はない。


 というか教えられない。


 だって、わたしの好きな人は――


「それじゃあわたしも秘密だなぁ。フェアじゃないもんねぇ?」


「そう……だよね」


 ――目の前にいる幼馴染、黒瀬瑞希その人なのだから。

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