第25話 プラナハカタル04

⭐︎⭐︎⭐︎穂丸 流華ポルカ


 始まりの町から旅立ち、7日が過ぎていた。


 人里離れた草原で、俺は膝をつく。仰ぎ見た空には星が輝いていた。


銀灰プラナ=グレイ死亡ロストしまた。存在アカウントの消滅に伴い、フレンドリストから削除されます』


 仮想窓ウィンドウを何度確認しても、その通知メッセージは消えず、変化もない。プラナとの連絡も途絶え、7日経過した今でもその痕跡すら探せずにいる。


「……そんなはずはない……俺は……プラナの死亡ロストを回避したはずだ……」


 俺がこの世界がゲームではないと気づいたのは、最近の事だった。


 正確には水辺の迷宮で、配信を終えた後である。きっかけは、コメント欄の違和感だった。そこでは、3年前に発生した魔獣災害が、初めて発生したかのように騒ぎ立てられていた。


 考えもしないではないか。


 このゲームが、実在する別世界であり、


 と接続してるなんて。


「この世界でトルネンブラッドは討伐したはずだ! そうすれば、俺がガキの頃にやらかした間違いも、全部、全部、消えるはずだった!!」


 少し強引だったが、銀灰プラナ=グレイをトルネンブラッドの発生が予想される場所へと誘導できた。


 結果、プラナの活躍により、トルネンブラッドは討伐された。


 迷宮に潜り、黒幕である教団も捕縛して牢獄に放り込んである。死者も出さず、完璧にやり遂げた。


 銀灰プラナ=グレイを殺せる魔獣なんて存在しない。厄災級ですら、討伐前提で、周りへの被害を考える余裕すらある。


 だから、殺せる手段は限られている。


 例えば、死者蘇生の代償によるキャラロスト。


 12歳の頃、里帰りした離島で体験した厄災。赤い霧が渦巻く地獄で、俺はヒーローだった。


 あの日、雨の中で灰になって消えるプラナを目撃するまでは。


『君が存在するせいだ。因果の逆転は不可能だからな』


 声が聞こえる。


「……黙れ」


銀灰プラナ=グレイ死亡ロストを起因とする行動で、銀灰プラナ=グレイを救える訳がないだろう。矛盾は当然修正される。君の観測した過去は覆らない』


「黙れ黙れ黙れええええぇぇ!!」


禁忌魔法ルールブレイカーなら可能性はあった。しかし、君は存在消滅のリスクを恐れた。銀灰プラナ=グレイは躊躇なく、君のために消滅したというのに』


「違う…俺は、頑張ったんだ…俺なりに一生懸命考えて……」


『まだ間に合うぞ。解放するのだ。君は既に手にしているだろう? くだらぬ世界の法則など無視する一振りを』


「まだ……間に合う?」


『そうだ。共に因果の逆転……禁忌を犯そう。その犠牲の先にこそ、銀灰プラナ=グレイ復活の悲願は成される。さあ、厄災の名を唱えよ』


 長い沈黙が続いた。冷たい夜風が頬を撫で、暗雲が星々を覆い隠していく。


 銀灰プラナ=グレイ亡き後、日本では多くの厄災が巻き起こる。プラナが蘇る事で、それらの厄災が回避されるなら。日本の人口が半減する惨劇を防げるなら。俺を含め、の犠牲は許容範囲である。


 なぁ、そうだな。銀灰プラナ=グレイ


 俺は仮想窓ウィンドウから、初めてこの兵装を選択する。


「魔王兵装、解放リリース。トルネンノイト」


 倉庫ストレージから一振りの剣を装備する。


 脈動するように蠢く、漆黒の糸で紡がれた異質な剣だった。


魔王兵装トルネンACU行使を宣言ファンクション・オンノイト・禁忌魔法ルールブレイカー強行フォーセス


 世界が闇に染められていく。


「……因果叛逆リベリオン……」



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 銀灰プラナ=グレイが灰燼となり、消滅して7日が過ぎ去りました。


 私は自身の揺籠ゆりかごに、3人の人間を招き入れていました。


 倉庫ストレージとよく似たこの空間は、魔力で構築された仮想世界です。


 あの子がログアウトしても違和感を抱かぬよう、緊急処置として作られた箱庭は、とても限定的です。


 病室と、自宅や別荘。それらを行き来する道なりしか存在しません。ただ、それだけで銀灰プラナ=グレイの世界は完結します。してしまうのです。


「いつまで、そうしているつもりですか?」


 私は作られた病室で、抜け殻に寄り添う天本 栞あまもと しおりに声をかけます。


「……語が生きてる限り、看病をやめるつもりはないわ」


 栞が看病しているのは、私が3年前に保護した肉体です。語と呼ばれるそれは、銀灰プラナ=グレイうつわとして余りに脆弱ぜいじゃくでした。


 語という肉体の牢獄に囚われ、我が子は常に苦しんでいました。だからこそ、私は星の盟約に背いてでも、保護する必要があったのです。


 だが、もう分からなくなってしまいました。この女から銀灰プラナ=グレイを引き離したのは、正しかったのか。私にはもう、何が正解か分からないのです。


「それは生命活動をしていますが、空っぽです。そこに、あの子はいません」


「それでも……ごめんなさい。私の我が儘に付き合わせてしまって。でも、私は諦めきれない」


「いえ、いいのです」


 価値観が違うのでしょう。死の概念が異なるのです。


「天本 栞、貴女も自身の身体を労りなさい。私は貴女の中に、銀灰プラナ=グレイの片鱗を見ました。もう、私は貴女を害せません」


 この女が見せる何気ない言動が、銀灰プラナ=グレイを連想させるのです。こうして、話をしている時でさえ、強く銀灰プラナ=グレイを幻視してしまう程に。


「……貴女こそが、真の母だったのです」


 この7日で思い知りました。


 私が無駄だと判断した肉体を保護し、看病を続けた栞こそが、母として正しい振る舞いだったのです。


 栞が止めなければ、私は肉体を処分していたでしょう。今なら分かります。理屈ではなく、処分の判断を、後悔していたと。


「いいえ、あなたも母親だわ。向こうの世界で、語をずっと守ってくれたのでしょう?」


「……ちが、私は、貴方に嫉妬して…銀灰プラナ=グレイを奪おうと……」


 苦しげに言葉を吐き出す私を、栞が抱擁しました。


「ありがとう。語を守ってくれて」

 

 その行動が、言葉が、どうしても銀灰プラナ=グレイを彷彿させます。だから、


銀灰プラナ=グレイの星が潰えた今……せめて、あの子が大切にした者を守らねば」


 そう、地球は既に滅びが始まっています。


 私はすでにその存在を補足していました。かつて、私が宿っていた星を滅ぼしかけた厄災。


「……トルネンノイト。なぜ、この地球に」



⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎銀灰プラナ=グレイ




 その日の朝、僕は正座させられていた。


「なんでスープに、先生肉を混入してるんですか!?」


「……うぅ…だって、僕のお肉のが、1番だって……えっぐ、証明じだぐで……」


「泣くほど!? どんな心理ですか!? やっぱり私、人間の心を理解できないですよ!」


 うさぎ肉と僕のお肉でスープを作り、クズハの反応を伺っていたら、混入がバレてしまった。


 何故バレてしまったのだろう。


「あんな露骨にどっちのお肉が美味しいでショーを開催されたら、嫌でも分かりますよ! AとBの肉並べて、味の感想求めちゃダメでしょ!」


「分かりました。次は上手くやります」


「そう言う話じゃないんですよ! 先生肉は確かにそこら辺の肉より美味しいですけど、倫理観が崩壊してるんですって! ああああ、もう! なんで、嬉しそうな顔してるんでか!?」


 やった! 僕の勝利だ!!


 ウザキ肉さん、君は確かに強かった。命を賭したお肉は強敵だった。しかし、友達を想う熱い気持ちと、気絶寸前の失血、規格外の魔力が勝利を手繰り寄せたのだ。


「そんな事よりクズハさん」


「そんな事!? さっきまで泣くぐらい執着してたのに、そんな事なんですか!?」


 僕の1番が確定したので、目的は達成された。もうこだわる必要もないので、任務について話し合わないといけない。


『日本にトルネンノイトが出現しました。サブクエスト:【トルネンノイトの討伐】が受託可能となりました』


 早朝にこの通知が届き、僕はこの任務クエストを受けるか迷っていた。


「ああ、これですか。私にも届いてますけど、どうします?」


「『星扉スターゲイト』がないので、そもそも日本に行けません。行けたとしても、今の僕では討伐は難しいです」


 殆どの聖女兵装を失った僕は、日本に渡る術を持たない。そして、討伐も現実的ではなかった。


「転移装置なら町に緊急用に標準設置されてますよ。始まりの町だと領主の館ですね。で、何を悩んでるんですか?」


「……だって、討伐も…確実じゃないし……それに……」


 あの日本エリアに行くと、いつも悲しい思いをする。今の生活が楽しすぎて、躊躇してしまう。


「……先生、行きましょう」


 クズハが僕の両肩を強く掴んで目を合わせる。


「悩んでるなら行くべきです。私ならそうします」


「でも、あそこに行くと…僕、銀灰プラナ=グレイと、天本 語の境目が分からなくなって、それで、いつも…心が苦しくなって……」


「どっちも先生なんだから、関係ないでしょ」


「どっちも……僕?」


「先生の説明を聞いて、私はそう判断しました」


 僕は今まで、銀灰プラナ=グレイと天本 語を明確に分けて考えていた。語を否定してゲームをしてきた。


 この問題は、難解で複雑でいつも考えるのを後回しにしてきた。


「母さんに、どう接すればいいのか、分からないですし」


「先生のやりたいように甘えればいいんですよ」


「いいんですか。そんな適当で」


「いいんですよ。適当で」


 いいんだ。


 なら、適当にやろうか。


 なにせ、これはゲームなんだから。


「よーし、先生もその気になりましたね! へへへへへ、ニホンには金の匂いがするんですよねぇ。さあ、領主の館にレッツゴー!!」


 元気に拳を突き上げるクズハが輝いて見えた。


「ありがとう、クズハさん」


 一緒にいると楽しくて、知らない世界を見せてくれて、美味しい大切な友達。


「僕は銀灰プラナ=グレイ……そして、天本 語なんだ」


 言葉にする事で、2つの存在が重なった気がした。




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20240817


 プラナハカタルの分割の投稿は終了になります。次回も分割になる可能性があります。ご了承下さい。


 次回の投稿は24時間後です。


 このメッセージは24時間後に削除されます。

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