第24話 プラナハカタル03


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎銀灰プラナ=グレイ


 その日の朝。


 朝食のパンを頬張るクズハを眺めていると、ピタリと食事の手が止まる。


「先生、この挟んでいるお肉なんですけど」


「はい、美味しいですか?」


「美味いですよ。ただ、出所が知りたくて。起きたら謎肉が調理されてたら、気になりますよ」


 なるほど。肉の製造元が知りたいと。  


「安心して下さい。ちゃんと僕の魔力で作りました」


「あれ? この前パンしか作れないと、言ってませんでした?」


「頑張りました。こうやって僕の血を魔力で練り込んで…」


 小型ナイフを取り出し、実践して見せる。手首の動脈を掻っ切り、滴り落ちる血液を魔力でこねくり回して肉を錬成する。


「お肉の完成です」


「ウミガメのスープううううぅぅぅ!!」


 この世界にもあるんだ。ウミガメのスープの話し。無人島に漂流した二人が食べていたスープが、実は亡くなった他の人たちの肉だった話。怖いよね。


「なんで朝食の度に、水平思考クイズやらされるんですか! 料理を自己流でアレンジするメシマズが可愛く見えますよ! もう、パンだけでいいですって!」


 綺麗に完食した皿を叩いて、抗議する僕の友達が理解できない。


「魔力で作ったパンと、なんの違いがあるんですか?」


「そこに血液がブレンドされると、狂気的になるんですよ! ちくしょう、何で不思議そうな顔するですか。絶対私が言ってる事、伝わってませんよね?」


 だって、魔法の触媒としては魔力も血液も似たような物だし。マジで違いが分からない。


 クズハはしばらく頭を抱えて考え込み、やがて静かに席を立つ。


「このままだと、今後何を食わされるか分かったもんじゃありません。先生に食事のなんたるかを教えます。森を散策しますよ」


 どうやら食事について、教えてくれるらしい。


 でも、森は魔獣も出て危険なんだよね。


「じゃあ、クズハさん。コレあげます」


 僕は聖女兵装の『星屑ほしくず』を手渡した。


「こ、これは……私の可愛いあんよに穴を開ける教材っ……」


「この聖女兵装ですが、本来は人に向けるものではありません。弱い魔力障壁なら貫通できる立派な武器です。僕が手本を見せるので構えて下さい」


 僕はもう一丁の星屑を取り出して外に標準を合わせる。クズハも僕に習い、ワナワナと震える手で、星屑を構える。


 うん、様になってる。飲み込みも早いし、この兵装に適性があるのかもしれない。


「あそこに木が見えますか? あれに向かって撃ちます」


 僕が手本に1発撃ち込むと、遠目にでも見えるほど大きな風穴を開ける。


「へへへへへ、なるほど。これは、クズハちゃんの覚醒シーン。力の一端を受け継いだ私が無双するヤツだ。この教材で、私をバカにするクソどもを教育できちゃうんですね!」


 クズハは目を輝かせながら引き金を引く。


「ぐっきゃんっ!」


 発砲の反動で、クズハは奇声を発しながら後ろに吹き飛んだ。


「ぎゃあああぁぁ! 私の手がああ! 小さくて可愛い私のお手てがあああぁぁ!」


 指があらぬ方向に曲がっていたので、治癒魔法をかて複雑骨折を治しておく。


「クズハさんの防御力より、兵装の威力が勝っているようです。魔力量が増えれば扱えるようになりますよ」


「くっ、いきなり借り物の力を得る、楽々なパターンじゃなかったか。まあ、後々に使えるなら貰っておきます」


 クズハは悔しそうに倉庫ストレージに兵装を仕舞い込む。仮想窓ウィンドウをもう使いこなしていた。適応力の高い友達である。



⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎



 森を散策する事、数時間。


「これが今日のお肉です」


 クズハが捕まえて来たのは、ウサギによく似た動物だった。血抜きため逆さに吊るされ、ピクピクと痙攣している。


「か、可哀想…癒さないと」


 今ならまだ、傷を治して元通りにできる。


「ダメです。私に捕まるぐらいマヌケなんですから。癒して森に放っても、他の動物に美味しく連れて行かれますよ」


 オロオロしているうちに、ウサギは動かなくなってしまった。死んじゃった。僕が、見殺しにしてしまった。


 クズハが呆然とする僕の両肩を強く掴んで、目を合わせる。


「先生、食事をしますよ」


「まさか、この子を食べるんですか? お肉なら僕がいくらでも作れて…」


「お肉はこうやって手に入れるんです! 普通、リストカットでお肉は湧いて出てこねぇんですよ! 食事の常識を改めましょうよ!!」


 それからクズハは食事について熱弁した。


 なかなか納得しない僕を、根気強く説得し、殺めたウサギの解体作業を手伝わされた。


 そうして、夕ご飯が完成した。


 僕の目の前にはパンと、ウサギ肉のスープが置かれていた。


「いただきます」


 自然と口をついて出た言葉。きっと僕は初めて本当の意味で、この言葉を使ったのかもしれない。


 お肉を口に放り込む。


 クズハさんが岩塩と山菜で味付したお肉は、とても美味しかった。


 いつもなら現実の事を考え、食べない僕だけど。このお肉は、全部食べないといけない。そう思った。


「ご馳走様でした」


 調子に乗って3杯もおかわりしてしまった。初めて満腹になったお腹をさすり、不思議な充足感に満たされる。


「先生、食事よかったでしょ?」


 食器を片付け終えたクズハがドヤ顔で聞いてくる。


「はい、何となく分かった気がします。ただ…なんだか……眠くて」


 知らずとあくびが出てしまう。


「ああ、腹一杯食べると眠くなりますよね。夜も遅いし眠ったらどうですか」


「ん、クズハさん……隣」


 隣を叩いて示すと、クズハは「しょうがないですねぇ」と添い寝してくれた。


 心地よい花の香りに包まれ、僕は眠りに落ちていった。



⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎



 翌朝。かつてない絶好調で目が覚めた。


 食事と睡眠の合わせ技は、最強である。


 このゲームには謎の仕様が、いくつも存在している。食事と睡眠も仮想窓ウィンドウに表示されない効果があったのだ。


 分かりやすくNPCが寝たり食べたりしてたのに、ムダなことしてると、スルーしていた自分がバカみたいだ。


「クズハさん、ありがとう」


 隣で大の字を書いて眠るクズハに、感謝を伝える。


 僕も負けてられない。


 テンション爆上がりで、小型ナイフを抜き放つ。果実を手際よく収穫し、倉庫ストレージから昨日のウサギ肉を取り出した。今日のライバルである。


 気分上々で手首を切りつけ、溢れ出した血液で肉を錬成していく。


「ウサギ肉さん…尊い命を犠牲に、たくさん学ぶ事ができました。でも、初めての友達の1番は、僕じゃないと……」


 僕のお肉が1番、美味しいですよね?

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