第10話

 大輝は呆然として、鳥居の外側に向かって小走りに去って行く美咲の後ろ姿を眺めていた。

 いったい美咲の心中に何が起こったのか、彼には全く理解できなかった。しばらくして彼は、隣で大輝を心配そうに眺めていた芽衣に声をかけられ我に返った。 

「大輝君大丈夫?」

 我に返った大輝はようやく何かおかしなことになっていると気がついた。

 そもそも、自分が芽衣に心配されていること自体がおかしい。大晦日の夜に受験勉強しているはずの彼氏が、自分の友人と二人で初詣に来ていて、いちゃいちゃしているところを目撃する。辛いのは美咲でも大輝でもなく芽衣のはずだった。それなのになぜ、悠人と唯が一緒にいるところを目撃した美咲は、狼狽しパニックになったのだろう。なぜ芽衣は、美咲に怒鳴られこの場に置き去りにされた幼なじみの大輝を心配する余裕があるのだろう。

 何かあるのだと大輝は思った。美咲のパニックにも芽衣の落ち着いている様子にも。一見すると意味のわからない二人の様子には何か富士峰の関係者だけが知る共通した解があるに違いない。

「いなくなっちゃったね」

 芽衣が大輝の顔をのぞき込んだ。

「一人で帰るって言ってたから、駅の方に行ったんだろ」

「そうじゃなくて先輩と唯もいないね」

 言われてみれば列の少し先にいた二人の姿がなくなっている。参拝待ちの幅広い行列を作っている群衆の中に紛れてしまったのだろう。これだけ人がいれば不思議でもない。

「二人を探す?」

 大輝はとりあえず美咲のことを頭の隅に追いやった。

「いい」

 芽衣が即答した。

「いいの?」

「うん。大輝君がお参りしていくなら付き合うけど」

「いや、おれもいいや」

「じゃあ帰ろう」

「そうしようか」

 芽衣がいったいどうやって感情を抑えているのか大輝にはよくわからなかった。彼氏の浮気現場を目撃したのだから、辛くないはずがない。本音を言えば、美咲の不可解な行動を気にするどころではなく、泣き出したい気持ちなのではないか。恋人に浮気されたのだから。それも自分の友だちと。二人は悠人と唯が一緒にいるであろう方に背を向けて、神社の外に向かって歩き出した。

 駐車場について車に乗る際、芽衣は迷わず助手席に座った。美咲がいなくなったので、それは自然な行動だった。大輝は芽衣の隣に座ってエンジンをかけた。

 帰路は先ほどの渋滞とうって変わって、海を離れる方角への通行はスムーズだった。海と神社の方へ向かう対向車線は相変わらず渋滞している。おそらくこの混雑はこの元旦中ずっと続くのだろう。

 走り出してからも芽衣は沈黙したままだったし、大輝も話しかけようとはしなかった。芽衣の様子を横目でそっとうかがうと、何か考えごとをしているようだった。

 自分の彼氏の浮気現場に遭遇したのだから、芽衣が悩むのは当然だった。芽衣には受験勉強があるから大晦日は外出できないと伝えながら、悠人は幼なじみの戸羽さんと二人で初詣にいた。そしていちゃいちゃしていた。

 彼はふと、それは自分と芽衣の行動に重なるのではないかと思いあたった。寄り添って抱き合ったり、勢いでキスしたり。そういうことを彼は芽衣とした。彼の場合は美咲と正式に付き合う前だったが、芽衣はそのとき悠人と付き合っていた。そう考えると芽衣には悠人を責める資格はないのかもしれない。

 それから彼の思考は不可解な美咲の言動に立ち戻った。悠人と唯を見かけてパニックになるという美咲の行動の意味を、彼は嫌な予感を感じながら恐る恐る考え出した。

 第一に考えられるのは、友だちである唯が同じく友だちであるはずの芽衣を裏切って、悠人と一緒にいたことに対する義憤といったことだった。 以前、美咲は唯は芽衣から悠人を奪おうとか考えていないと言っていた。その信頼が裏切られたのを目の当たりにして、美咲が憤ったのではないか。この考えは彼にとって一番受け入れやすいが、一方で、ほとんど可能性がない考え方であることもわかっていた。

 その考えと美咲の行動とは相いれない。唯に憤った美咲がその場でその不満を声高に述べたり、場合によっては唯に声をかけて直接非難するとかであれば理解できる。でも彼女はパニックになり姿を消したのだ。いくらショックを受けて怒ったとしても、黙って自分の彼氏から逃げ出したのは理屈に合わない。

 もう一つの考えも先ほどから大輝の脳裏に浮かんでいた。しかし、それは想像するだけでも胃が重くなり、暗い不安定な感情を彼の胸中に生み出すものだった。それでも彼は自分の中の抵抗を抑えてその考えを探った。

 仮に美咲が前から悠人のことを好きだったのだとしたら。以前、美咲は中一のときに悠人に助けられたことがあると言っていた。そのときは悠人への好意はないとも言っていたが、それが嘘だったとしたら。

 一度は芽衣のために悠人を諦めた美咲は、同じように悠人を諦めていたはずの唯が悠人と距離を縮めたことに驚き、怒り、そしてパニックになったとしたら。

 そういうことであれば、美咲が大輝を置き去りにして逃げ出すのも理解できる。つまりその場合は美咲は大輝のことを好きではないということだから。

 こうして考えると美咲の受けた衝撃は、この二つが複合した状態で生じたのかもしれない。唯の裏切りそれ自体と、再び悠人を失ったこと。やはりそれが正解らしく思えてきた。

 そして次に浮かぶ疑問は、なぜ美咲は好きでもない大輝に告白し付き合い出したのかということだった。寂しさを紛らわすためなのか。それとも気まぐれ? 

 美咲はきちんと大輝に向き合い、長く付き合おうとは思っていなかったのかもしれない。そう思えば、彼のことを両親に話したがらないことも説明がつく。両親に話す必要性を彼女はこの付き合い自体に認めなかったのだろう。

 この先本当に好きな人ができたり、奇蹟的に芽衣と悠人が別れることがあったら、大輝とはすぐにでも別れるつもりだったのかもしれない。

 彼の考えはだんだん暗い方向に向かって流されていった。さっき、うるさいって怒鳴った美咲の言葉の中には、彼への愛情のかけらすら感じられなかった。美咲と付き合い出した頃から何かひっかかっていたことを彼は思い起こした。美咲の積極的な行動、ほのめかすのではなくむき出しにされていた彼への好意、そして礼儀正しい言葉遣い。 普通に考えれば理想的な彼女のあり方と言ってもいい。しかし、自分を客観的に見ると、この年になるまで女性とと付き合ったことがない彼に、いきなり完璧な恋人ができるわけがない。美咲は演技していたのだろうか。彼のことが大好きなふりをしていただけなのだろうか。

「大輝君」

 思ったより考え込んでいたらしい。芽衣を見ると、彼女は少し心配そうな、不安そうな表情だった。

「なに?」

「急いで帰らなくてもいいならファミレスに寄って行かない?」

 もう夜中の二時過ぎだったがお腹は減ってはいない。芽衣だってそうだろう。悠人のことか美咲のことか、芽衣は何かを話そうとしていると大輝は思った。

「いいよ」

 しばらく車を走らせると道の左側に終夜営業しているファミレスを見つけた。

「混んでるかもね」

「別にいいよ」

 芽衣の言葉を聞いて大輝は左折し駐車場に車を入れた。

 新年初日のファミレスは予想どおり混んでいたが、たまたま客が一度に帰ったため、二人はさほど待たされずに席に案内された。注文が終わってウェイトレスが立ち去ると、芽衣が大輝を見つめて話し出した。

「気をつかわせてごめんね」

「本当に大丈夫なの?」

 大輝の言葉を聞いて芽衣は少し寂しそうに微笑んだ。

「うん。よくあることだし、先輩もてるから」

「よくあることって」

「今までもわたしに隠れて他の女の子と遊ぶことなんてよくあったもん」

大輝は何だか腹が立ってきたが、それが浮気する悠人に対してなのか、浮気されることに慣れて大丈夫だと微笑んでいる芽衣に対してなのかよくわからなかった

「よくあったって・・・・・・堂々と志賀に浮気されて黙ってるのかよ」

それとも、それは自分を道具として扱ったのかもしれない美咲に対する怒りなのか。

「・・・・・・わたしも先輩のこと非難できる立場じゃないし」

 芽衣が大輝から目をそらしテーブルの上を何となく見ながら言った。

 彼に寄り添いそっと彼の肩に頭を乗せた芽衣の姿や、芽衣を抱き寄せてキスした自分の姿が一瞬彼の脳裏に浮かんだ。

「ごめん。おれのせいだ」

「ううん」

 彼は芽衣の否定の言葉を聞いたが、それ以上のこの関係の深みには踏み込んで言及できなかった。

「このまま浮気に目をつぶって彼氏と付き合い続けるの?」

「わかんない」

「わかんないって」

「今回は相手が唯だったし。唯って先輩の幼なじみなの」

「知ってる」

 やはり美咲から唯と悠人の関係性を聞いたときに疑った自分の直感は正しかったのだと彼は考えた。

「だから今回は浮気じゃなくて本気かもしれないね」

「・・・・・・他人事みたいに」

「大輝君はどうなの? 大丈夫?」

 美咲の不審な態度に芽衣も感じたことがあるのか。さっき推測した美咲の態度の理由を話してもいいのか、彼にはわからなかった。

「今日、芽衣がいてくれてよかったよ」

 大輝は話をそらしつつも、ああ、これは本当だと思った。あの場で美咲に逃げられ一人取り残されていたとしたら、自分がどれほど落ち込んでいたか考えたくもない。

 今でも不穏で不安な気分だけど、これが一人きりの帰り道だったらこんなものでないほどの負の感情が彼にまとわりついただろう。

「それならいいけど。最初は邪魔かと思ったけど結果オーライか」

「いろいろ芽衣には迷惑をかけるな。クリスマスイブの口裏合わせといい」

「口裏合わせってなに?」

 芽衣が不思議そうな顔をした。

「美咲ちゃんからイブの夜にLINEで頼まれたでしょ? 芽衣の家で遅くなったことにしてくれって」

「そんなの知らないよ」

 大輝は唖然とした。

 どういうことか芽衣が知りたがったので、もう勘違いだったとごまかすわけにもいかなくなった。彼はイブの日の夜に美咲が門限に遅れそうになり、芽衣に口裏合わせを頼んだことを話した。

「志賀と一緒に過ごしているところを邪魔しちゃったって、美咲ちゃん言ってた」

「先輩と一緒になんかいなかったよ。先輩、受験勉強があったし。わたしはうちで家族と一緒だったし、そのことは美咲も知っているはずだよ」

 芽衣がため息をついた。そして顔を上げて大輝を見た。

「大輝君、さっきの美咲の態度をどう思った?」

 自分からは言い出しづらい、言い出していいかもわからなかった話題だったが、美咲の嘘が明らかになり芽衣の方から聞いてきた以上、彼は素直に自分の疑問を話した方がいいと思った。

「美咲ちゃんって志賀のことが好きなのかな」

 彼はついにその言葉を口にした。

「中一の頃からね、美咲は悠人先輩に憧れていたの。変な高校生の先輩につきまとわれていたのを彼に助けてもらってからずっと」

 やはりそうだったのか。大輝は今更驚きはしなかったが、芽衣の口から改めて聞くと判決を受けたような気がした。彼の疑いが確定したのだ。

「そうなんだ」 

 芽衣は彼の反応を伺いながら話を続けた。

「それでも美咲は自分から悠人に近づこうとか告白しようとかしなかったの」

「それって誰に聞いたの」

 芽衣と美咲は中学時代はそれほど仲良くなかったのではなかったか。この二人と唯が仲良くなったのは高校一年で同じクラスになってからだったはず。それにそもそも芽衣が悠人と知り合ったのだって高校一年のときだった。

「美咲から直接聞いた。高校生になって仲良くなったころ、美咲がわたしや他の子たちも一緒で遊んでいたときに言ってた。そのときはお互いに好きな子っている? とかそういうノリで話してたら、美咲が問い詰められて悠人先輩が好きって」

「そうだったのか」

 そんなことは美咲は一言だって言ってなかった。「それでも美咲が何の行動も起こさないので、ある日、二人でいるとき何でって聞いたの。美咲くらい可愛ければその気になれば先輩だって好きになるのにって思って。そしたら唯のためだって」

 そこまで話して芽衣は少し言葉を切って、次の話をためらっているようだった。大輝は続きを催促せず黙って芽衣を待った。この次に起こる話は既に知っている。志賀悠人が芽衣に惚れ告白し芽衣がそれを受け入れるのだ。

「わたし」

 今や芽衣の顔は蒼白で、その声も小さくなった。

「わたし、美咲や唯にひどいことをした。悠人に告られたとき、美咲や唯のことを考えたら断って当然なのに、はいって。はい、お付き合いしますって言って」

「うん」

 大輝は芽衣を慰めようとはしなかった。芽衣のしたことがひどいと受け止めるかどうかは人によるだろうと思った。美咲が唯の気持ちをおもんばかって行動しなかったことと、芽衣が悠人に告白されたとき、返事に際して美咲と唯の気持ちを考慮しなかったことを比較すると、芽衣は自分勝手に思えるかもしれないが、芽衣が本当に悠人が好きなのであれば、芽衣の行動は一概に悪いとは言えないのではないか。悠人の気持ちが美咲や唯ではなく芽衣にあるのだとしたら。

 それでも大輝はそのことを口にはしなかった。芽衣はそれくらいのことに気がつかないような女の子ではないと考えたからだ。

「美咲には悪いことをしちゃった」

 芽衣が続けた。

「それでも美咲は祝福してくれたの。美咲は完璧な人間じゃないよ。嫉妬もするしずるいこともするし人のことを傷付けもする。てかわたしも、多分、唯も同じだけど」

「そうかもね」

 人とはそういうものかもしれない。多分自分だって同じだ。

「それでも美咲は、あの時わたしに気を遣ってくれて、よかったねって言ってくれたの」

「だから君たちは今でも友だちなんだね」

 美咲はいつも自分の恋愛よりも友情を選ぶ子なんだと彼は思った。もちろん、無償で友情は与えられない。我慢している分、自分が傷つくのだ。だから彼女はその傷をとりあえず嫌いではない程度の男で繕おうとした。それが大輝だった。

「さっき美咲ちゃんがうろたえたのは何でだろう」

 唯の裏切りと悠人を二度失ったこと。自分で考えた結論はそれだった。

「美咲ちゃん、やっぱり今でもまだ志賀悠人に未練があるのかな」

「・・・・・・多分」

やはりそうか。美咲が好きなのは大輝ではなく悠人だったのだ。

「おれってバカだよな」

 大輝は自嘲気味に言った。

「あんな子が一目惚れみたいにおれのこと好きになるわけないのに。悠人から目をそらし、あいつを忘れるためにおれに声をかけたのか」

「違うと思う」

 意外な答えが芽衣から返ってきた。

「違うの?」

 ひょっとして美咲は本当に彼を好きなのか。

「最初に美咲と一緒に大輝君に駅で会って家まで送ってもらったでしょ。次の日に、カラオケの帰りだったかな。美咲から大輝君の連絡先を教えてって言われたの」

大輝はスマホでSMSを開いて確認した。

『突然ごめんなさい。先日車で家まで送って頂いた朝倉です。まだお礼も言っていなかったので、芽衣にお願いして大輝さんの電話を教えてもらってショートメールを送らせてもらいました。送っていただいてありがとうございました』

「これか」

 大輝は芽衣にスマホの画面を見せた。

「そうそう。それまでは悠人先輩以外の男に関心を示さなかった美咲が、初めて男の人に興味を示したの。連絡先教えてって。本当は大輝君の電話番号教えるの嫌だった。でも、美咲があの日以来初めて自分から行動を起こそうとしていたし、わたしは応援するしかなかった」

ここまでの話でも大輝の疑問は晴れなかった。憂さ晴らしの相手を見つけた美咲が連絡先を知りたがっただとしか思えないからだ。

「大輝君と美咲が付き合い出して、もう美咲は大丈夫だと思ったの。美咲にも本当に好きな人ができたんだって。でも、さっきの美咲を見てまたわからなくなちゃった」

「おれにもわからねえよ。今の話だと美咲ちゃんはおれのこと好きになったってことでしょ?」

「うん」

「さっき、芽衣の彼氏の方をにらんでいた表情とかうるさいって叫んだ声とか」

 彼の脳裏にその光景や口調が浮かんだ。

「あれって絶対に好きな男に対する態度じゃないと思う。女性経験なんて無いに等しいおれでもそれくらいはわかるよ」

「そうだね」

 芽衣がまっすぐに彼を見た。

「今日、美咲の様子を見て、きっとまだわたしのことも本当に許してないんだと思った」

「え? どういうこと」

「大輝君ごめん」

「なんで芽衣が謝るの」

「美咲が大輝君と付き合ったのは、わたしへの仕返しだったんじゃないかって思う」

芽衣の言葉の意味を大輝はすぐには理解できなかった。

「わたしが一番好きで大切な人が誰か、美咲には気づかれていたみたい。美咲は大切な人を奪って行ったわたしに、同じつらさを味あわせたかったのかも」

どういうことだ。彼は芽衣の次の言葉を待った。

「多分、美咲が好きなのは大輝君じゃなく、美咲は今でも先輩のことしか好きじゃない」

 美咲が彼のことを本心で好きになったのではないことは、残念ながら芽衣の説明によって明らかになった。だから彼の推理は当たっていたということだ。ただし、その理由というか動機は考えていたことと異なっていた。

 とりあえず好きではないけど、近くにいた適当な男で自分を慰めたということですらない。美咲は芽衣に嫌がらせをするための道具として、彼を利用しただけだと芽衣は言った。かたくななまでに、美咲が自分の両親に彼の話をしなかったのはこういうことだったのだ。

「わたし臆病なのかな、本当に好きな人に対してなにも行動できずに想像ばっかりしてた」

「何の話してるの」

 今では大輝の声もかすれていた。

「大輝君の方からわたしに会いに来て声をかけてくれないかなって。幼なじみの大輝君の方から小さいときから芽衣が好きだったって言ってくれないかなって」

 芽衣はもう何も隠していないようだった。話しながら、ただ静かに彼の方を見ていた。

「悠人先輩の告白をなんとなく受けたけど、大輝君と再会して後悔したの。再会してこんなに早く打ち解けたりできるなら、先輩と付き合うんじゃなかったって」

「芽衣」

「ずるい女でしょ、わたし。悠人先輩の浮気と美咲の裏切りや動揺を喜んでるの。これで大輝君に正々堂々と告白できるって。ちっともつらくなかったの、先輩が唯と浮気しても。わたしは大輝君が好き。小学校の放課後、一緒に遊んでいた頃と同じように大輝君が好き」

 これまでの不安や焦燥を、芽衣の告白は一気に吹き飛ばして晴らしてくれた。しかも、芽衣の言っていることが事実ならば、彼は美咲に罪悪感を感じずに芽衣の心情に応えることができる。

 心の奥底で、それは不誠実ではないのかと自分に問う声がしたが、その小さい声を彼は聞かなかったことにした。

「芽衣が好きだ。おれと付き合って」

 大輝はそう言ってテーブルを挟んだ向こう側にいる芽衣の手をそっと握った。芽衣が彼の手を握り返した。

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