Day31『遠くまで』:ある特別な日の話

「何だか懐かしいな、この感じ」

 四つ並んだうちの窓際にあるベッドの上に座る輝くような金色の髪の少年が楽しそうに笑った。

 旅の途中で訪れた町にあるホテルの四階、四人用デラックスルームと呼ばれる部屋の中。ベッドと窓の間のお洒落なフロアライトが設置してあるそのスペースには、わざわざ窓際へ移動させてきた一人用ソファチェアが置いてある。

 そのチェアに座っている色を塗り忘れたような白髪を持つ少年が、少しだけ呆れた様子で笑い返す。

「ヒロの気持ちはわかるよ。でも、そんなこと言ってると反省してないみたいに聞こえるよ。さっきセプたんにさんざん怒られたのに」

「ちゃんと反省してるぞ。フリィだって見ただろ、あの時のレジーナの心配そうな様子。あんなのを見たら二度と倒れるわけにはいかないだろ」

「あの時のレジーナの慌てっぷりはすごかったよね」

 フリィは思い出したかのように小さく笑った。

 この町では本日、花火大会が開催される。

 昨日この町にやってきた一行は何やかんやあって主催者から祭りで屋台を出さないかと打診された。困っているなら力になりたいと二つ返事で頷く者と屋台を出すなんて面白そうと大はしゃぎする者、そして、少しでも旅の資金を稼げるならと熱意に満ちた者。三様に理由はあれど誰も反対しなかったので、一行は屋台を出すことになった。

 そうして話し合いで何の商品を出すのかを決め、それに必要な機材や設備を借り、今朝から屋台の準備を始めていた矢先のことであった。他の屋台を建てるのを率先して手伝っていたヒロが軽い熱中症による立ち眩みで倒れたのは。そして、それを目の当たりにしたレジーナの彼を呼ぶ叫び声は、仲間たちや準備をしていた住民たちだけでなく意識はあった当の本人を含むこの場にいた全員が、ヒロが何者かに襲撃されたのかと錯覚するほどに悲痛な声音だったのである。

 慌てて振り向いた仲間たちが見たのは、倒れた資材に片足を巻き込まれたまま熱で赤くした顔で起き上がったヒロを必死に水魔法で応急手当てをするレジーナと、今にも倒れそうなほど真っ青な顔のレジーナの身体を支えながら心配そうに声を掛けるヒロの姿で。どちらが病人なのかわからないその状況の中で、ヒロが突然倒れた、レジーナの顔色が悪い、と言い合う彼らに堪忍袋の緒が切れたアクセプタの一言で、二人揃って問答無用でホテルへ放り込まれることとなる。そして、彼らの監視にフリィが駆り出されたのだった。

 窓の向こうからは祭囃子や喧騒が聞こえてくる。

 花火が打ち上がるよりも前、日が暮れるより先に始まった祭りは主催者たちの話によれば近隣の村や里からも来訪客が集まるらしい。

 おもむろにフリィは窓の外へ視線を向ける。

「今頃みんなは屋台でてんやわんやしてそうだね」

 彼の物言いはまるで他人事のようだ。

 相変わらずベッドの上にいるヒロは、未だ残る残暑と熱気による体調の悪化が懸念されて今日一日戦力外通告されている。一方でレジーナはヒロが倒れた精神的ショックで顔色が悪かっただけということもあり、隣のベッドを読みかけの本や採ったばかりの薬草など彼女の荷物で散らかしたまま、少し前に仲間たちと合流した。そして言うまでもないが、フリィもまた引き続き監視役としてここに残っている。

「…………」

 窓の外に広がる祭りの賑わいをぼんやりと眺めているフリィの横顔を見つめるヒロは、ふと喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。自分のせいで親友も祭りに行けなくなってしまったことに深い申し訳なさを覚えるのは事実だが、フリィは決して謝罪なんて望んでいないと長年の付き合いから理解できる。彼ならきっと、謝られるよりもせっかくのこの時間を楽しみたい、と言うだろう。

 そう思ったヒロは大げさにベッドに寝転がる。

「あーあ。俺、かき氷売りたかったな」

 普段の彼らしからぬ年相応に拗ねた態度にフリィは目を丸くしてヒロを見やったが、ややあって、クスクスとからかうような笑い声を上げた。

「ヒロ、毎年言ってるね、それ」

「そりゃあ毎年思ってるからな」

「でも、僕たちが出す屋台はかき氷じゃないよ」

「わかってるさ。けど、俺は屋台をやるならかき氷を売りたかったんだ」

「ヒロの気持ちはわかるけど、こればかりは仕方ないよ。競合店が多いかき氷で勝負するよりも、店数は少ないけど需要がある焼きそばで客数を稼いだほうが結果的に儲けられそうって結論になったんだから」

「それもわかってるさ」

 彼らが育ったピーク村と呼ばれる辺境の小さな村でも夏になると祭りがあった。この町で開催されるような大きな催し物ではなく、住民たちが集まって楽しむ行事のひとつではあるが。

 まだ旅に出る前。村で平和に暮らしていた頃のヒロは今よりもずっと身体が弱くて村の夏祭りに参加できず、ベッドの上からただ祭りの光景を眺めているだけだった。そしてフリィは、毎年祭りで買った二人分の焼きそばとかき氷を手にヒロの部屋を訪れては二人で他愛もない話をして過ごしていたのである。

「まあ、かき氷にしろ焼きそばにしろ、ここにいる時点で売れてないからね。ヒロにしては珍しいというか、もはやそういう運命なのかもしれないよ」

「そんな運命があってたまるか」

「この際だから聞くけど、何でかき氷なの? 毎年村長――ヒロのお爺さんは焼きそばを売ってるのに」

「じいちゃんが焼きそばを売ってるのはもちろん知ってるが、祭りの出店は焼きそばだけじゃないだろ。じいちゃんなら俺がいなくても大丈夫だから、それなら他の出店を手伝いたいんだ」

「ふーん。そっか」

 フリィは微笑ましそうに笑った。

 毎年飽きずに繰り返し言うその理由をヒロは、かき氷を売りたいのではなくかき氷を売るのを手伝いたいからだといった。だが、長年の親友だからこそフリィには彼のその言葉の真意が理解できる。おそらく、ヒロ本人は無自覚で気付いていないようだが、彼は屋台の商品を売りたいのではなく誰かと祭りを楽しみたいのだろう。

「でも、それならヒロが――」

「やっほー! ヒロ! フリィ! 元気してる?」 

 明るい声とともに部屋のドアが盛大に開いた。

 二人が揃って視線を向けた先ではふわふわした水色の髪の少女が室内へ歩いてきていて、二人分の焼きそばを両手に満面の笑みを浮かべている。

 その姿にヒロはパッと起き上がると笑顔を返した。

「レジーナ! そっちはどうだ? 屋台は順調か?」

「順調だよ! 焼きそば作りのコツを掴んだウィンが焼きそばキングになってて、ティアが屋台の看板妖精になって、すっごい大活躍なの! おかげで、始まって早々にセプと一緒に追い出されちゃった!」

 あっけらかん言いながらと笑うレジーナはヒロのベッドに近寄る。

「だから、うちの屋台の焼きそば、ヒロとフリィに買ってきたの。美味しいから食べてよ!」

「ありがとな、レジーナ」

「ありがとう。僕、お腹空いてたから嬉しいよ」

 レジーナが持っていた焼きそばを二人にそれぞれ差し出すと、ヒロとフリィは同時に受け取った。

 早速焼きそばのパックを開けるフリィを横目に、同じように封を開けようとしたヒロはふと首を傾げながらレジーナを見やる。

「ん? わざわざ買ったのか?」

「うん! せっかくのお祭りだもん。屋台の料理を食べなきゃ勿体ないと思って! ね、セプ?」

 レジーナが振り返った先へフリィとヒロは同時に目をやる。そこには、ちょうど部屋に入ってきたところの燃えるような赤髪の少女が彼ら三人に疲れ切った顔を向けていた。

「はいはい、そーだな。もう好きにしてくれ……」

「セプたん、ずいぶんお疲れみたいだね」

「大丈夫か? アクセプタ。顔色が悪いみたいだが」

 今にも深いため息を吐きそうなセプことアクセプタはおもむろに首を横に振りながら、部屋の中央に残っている一人用ソファチェアにドカリと座り込んだ。

「心配いらねーよ。祭りの人の多さに疲れただけだから。ま、後はこっから花火見るだけだし、アタシはここに座ってゆっくりさせてもらうとしよーかね」

 しかし、そんなアクセプタに向けて目を丸くしたレジーナが驚いた声で言う。

「え? セプは一緒に来てくれないの?」

「何言ってんだ。一緒に来たじゃねーか」

「違うよ。ここにはヒロたちに焼きそばを届けに来ただけで、お祭りはこれからだよ!」

「はあ? もうじゅーぶん見たじゃねーか」

「まだまだ全っ然お祭りを楽しんでないよ! 屋台も全部見て回ってないし、それに私、かき氷食べながら花火見たいもん!」

「知らねーよ、勘弁してくれや……」

 アクセプタは額に手を当てて深くため息を吐いた。

 そんな疲労に満ちた彼女の顔を見たレジーナは一瞬だけ寂しそうにションボリとしたが、次の瞬間には普段通りの明るい笑みを浮かべていた。

「もう、しょうがないなあ。私だって疲れたセプを連れ回したいわけじゃないし、この後は――」

「セプたんの代わりにヒロが一緒に行ってくれるよ」

 にこやかな笑みとともにフリィがそう続けた。

 発言を遮られたレジーナ、そして代理を提示されたアクセプタが二人揃って目を丸くしつつフリィを振り返る。唐突に名指しされたヒロもまた驚きと困惑が混ざった様子でフリィを見やった。

「えっ俺? が、一緒に行っていいのか?」

 問いかけた彼の言葉には、同行するレジーナへの気遣いと、そもそも安静にしてなくていいのかという伺いが汲み取れた。

 フリィはニコニコと笑みを浮かべるだけで何も答えずに、様子を窺うようにレジーナへ視線を向ける。当の彼女は驚きと嬉しさと困惑が混ざった顔で一人百面相をしていた。素直に喜べないのが彼女らしいな、なんて思いながらフリィは改めてヒロを見やる。

「いいに決まってるよ。昼間の医者も問題ないって言ってたんだからさ。ね? セプたん」

「へ? ああ、まあそーだな。見たところ勇者は全然元気そうだし……万が一何かありゃ薬屋が何とかしてくれんだろーし」

 訳知り顔のフリィと何かを察したアクセプタの言葉に、ヒロはニッと笑う。

「それは有り難いな! ここでフリィと話してんのも楽しいが、せっかくの祭りに行けなくて退屈してたところなんだ!」

「そりゃ丁度いいな。どーせならよ、勇者さえよけりゃ薬屋一人で祭りの中に放り出すのは心配だから一緒に行ってやってくれねーか?」

「ああ。もちろんだ。任せてくれ」

 ヒロは爽やかな笑みで頷いた。

 だが、それを聞いたレジーナはハッと我に返ると、今にもベッドから下りようとしているヒロの肩を慌てて掴んで制止させる。

「いやいや、ちょっと待ってよ。せっかく、お祭りに行くなら、私じゃなくてフリィと行ってきなよ!」

「フリィ? 何でだ?」

「だって唯一無二の親友なんでしょ? ヒロにとっては初めてのお祭りなんだから、特別な相手と一緒に楽しんだほうが絶対いいよ!」

「それはそうかもしれないが……せっかく祭りに行くなら俺はレジーナと一緒に祭りを楽しみたい」

「ひえ」

 顔を赤くしたレジーナは目を白黒させて言葉を詰まらせた。

 ヒロはそんな彼女に笑い返すとフリィを振り返る。

「それに、フリィは祭りに行く気ないだろ?」

「何でそう思ったの?」

「だってお前が祭りに積極的だったら、アクセプタの代理に俺じゃなくて自分が行くって言ってただろ」

「うーん、まあ……確かにそうかも」

 フリィは曖昧に笑って答えた。

 少し不服そうとも悪戯がバレたともとれる表情を浮かべている彼は、今まさに食べようとしていた焼きそばを膝上に置いて会話をしており、どう見てもソファチェアから立ち上がる素振りはない。

「やっぱりな。そんな気がしてたんだ」

 言うなりヒロはベッドから出て身支度を始めた。

 それを横目で見ながらフリィは、ヒロの隣で照れた様子でオロオロとしているレジーナへと微笑ましそうな笑みを向ける。

「ほらレジーナ。せっかくヒロと二人で祭り回ったり花火見たりするんだから、初めて同士でめいいっぱい楽しんできてよ」

「〜っっ!?!!」

 思わぬ不意打ちに顔を真っ赤にしたレジーナを見て、フリィは楽しそうに笑う。それを一歩引いたところから眺めていたアクセプタは思わずと言った様子で呆れ半分嬉しさ半分の笑みを零していた。

 身支度を終えたヒロがレジーナを振り返る。照れと恥ずかしさが混ざったような困惑気味な表情をしている彼女と目が合うと、ヒロは困ったように頬を掻く。

「……えっと、俺はレジーナと祭りに行きたいと思ってるんだが、レジーナが嫌なら別に――」

「嫌じゃないよ!! でもその、私でいいのかなって言うか……何で私でいいんだろうって思って、その」

「何でってそりゃあ、一緒に行くなら祭りを回るのに乗り気で楽しみにしてるやつと一緒に行ったほうが楽しいだろ。それにレジーナも祭りを回るのは初めてだって聞いてたし、一緒に楽しみたいと思ってさ」

「そ、そっか……」

「レジーナ?」

「ううん、何でもない。……ええと、あの、私もヒロと一緒にお祭りに行きたい!」

「ああ、もちろんだ。行こうぜ!」

 ヒロはニッと笑うとレジーナの腕を掴んだ。

 ビックリして言葉を失った彼女に気付かず、ヒロは先程受け取った焼きそばとレジーナの腕をそれぞれ片手にホテルの部屋を出ようとする。

「じゃあ俺たち祭りに行ってくるな」

「行ってらっしゃいヒロ、レジーナ。楽しんでね」

 フリィがニコニコと手を振った。

 二人が見送る中、どことなく勇み足でヒロがレジーナを引っ張って部屋を出て行く。その背中からは祭りが楽しみで待ちきれない様子が伝わってくる。

 バタンと閉まった部屋のドアからフリィとアクセプタは同時に目を離すと、示し合わせたかのように揃って部屋のバルコニーへと出た。

「っつーかホントによかったのか? 配達員だって勇者と祭りに行きたかったんじゃねーの?」

「正直言うと、そこまでヒロと一緒に行きたいとは思ってないんだよね。一緒だったらそりゃあもちろん楽しいけど、強いてヒロと一緒に回るよりも、こんな楽しいことをしたんだよって祭りの後でたくさん話したいって感じなんだ」

「ふーん。よくわかんねーな」

 そんな話をしている二人の眼下で、見慣れた二人組が楽しそうにホテルから出てきた。言わずもがな、ヒロとレジーナである。

 部屋を出た時と打って変わって楽しそうにキラキラと笑うレジーナがヒロの腕を引いて屋台の列を指差している。先程、屋台を全部回っていないやら花火を見ながらかき氷を食べたいやら言っていたので、すっかり祭りを楽しむスイッチが入っているようだ。一方でヒロもヒロで指折り数えながら何かを話している。部屋にいた時にヒロはフリィと祭りの屋台のメニューについても盛り上がったので、もしかしたら食べる物について話しているのかもしれない。

 そんな二人をバルコニーから眺めるフリィは感慨深そうでいて、それでいてとても嬉しそうにしている。

「僕、ずっとこんな光景を見てたかったんだ」

「……?」

「村が焼け落ちて、ヒロが勇者として旅立って、あの頃は当たり前だった時間が貴重なものになってさ。こうやってヒロと、……ううん、ヒロだけじゃなくてセプたんやレジーナ、みんなと一緒に旅をする毎日が掛け替えのない当たり前になってさ」

 そう語るフリィは物思いにふける様子で遠くの夜空へと視線を向けた。真っ黒な空には祭りの明かりで照らされた雲がゆっくりと流れている。

 アクセプタは上手く相槌が打てず、答えを探すように眼下に広がる祭りの光景へと視線を落とした。

「僕、みんなと一緒にやってる勇者の旅も大事にしたいけど、ヒロに勇者としてやるべきこととかそういう堅苦しいものばかりじゃなくて、勇者じゃないヒロ自身の気持ちや思いも大切にしてほしいって思ってて」

「ふーん。それで祭りに行かせたっつーわけか」

「うん。ヒロ、昔から祭りを楽しみにしてていつか参加したいって言ってたからね。……それに、たくさん助けて支えてくれたレジーナにも何か恩返しもしたかったから、ヒロと一緒に祭りに行ってもらおうかなって思ってさ」

 今がチャンスだったんだ、とフリィは笑った。

 淡泊なようでいながらも存外身内には義理堅いフリィが、同じ村で育った幼馴染みである彼らのことを特に気にかけていることも、その理由もアクセプタは知っている。そして、ヒロとレジーナもやり方に違いはあれどフリィと同じように幼馴染みたちを大事にしていて。彼らの不器用ながらも強い絆を、アクセプタは眩しく思いながらも少しだけ羨ましくも思っていた。

 ふと浮かんだ感傷を誤魔化すようにアクセプタはバルコニーの手摺りに頰杖をつく。眼下に広がる祭りの光景はフリィたちの故郷である辺境のピーク村ではもちろん、アクセプタが育った書庫の町アーカイブスでも見たことがない。

「なーんか、ずいぶん遠くまで来たもんだな……」

 誰に言うでもなくアクセプタはそう呟いた。

 ピーク村やアーカイブスなど小さな村や町ばかりが多い丘陵地域では滅多に見れない大掛かりにして賑やかな祭りは、それだけでここが遠い地であることを物語っている。

「そうだね。でもきっとヒロならまだまだ世界には知らないことばかりって言うだろうし、レジーナはもっと遠くまで行ってみたいって言いそうだよ」

「ハハッ、確かにアイツらなら言いそーだな」

「僕も、みんながいるならどこまでも行けそうだって思うんだ。セプたんも一緒だしね」

 フリィがそう言った直後、夜空に花火が上がった。

 大きな音と色鮮やかな光の炎に、二人は揃ってそちらへと視線を向ける。

「あっ、ここの花火は色鮮やかなんだね」

「何言ってんだ、これがフツーの花火だよ」

「そうなんだ? じゃあ、アーカイブスでセプたんと見た赤い花火はあの時だけの特別ってことだね」

「んなこと、わざわざ言わなくていーんだよ」

 アクセプタのつっけんどんな物言いを聞きながらフリィは次々と打ち上がる花火を見つめる。

 赤色だけでなく、黄色や青色、緑色など様々な色を夜空に彩る花火はまるで様々な思いで集まって旅をしめいるた今の自分たちを表しているようにフリィには思えた。ピーク村から……旅の始まりからずいぶんと遠くまで来たけれど、きっとこれからもっと遠くへ行くのだろう。終着点はどこかわからないけれど親友のヒロだけでなく、アクセプタやレジーナ、仲間たちと一緒ならどこまででも行けるとフリィは信じている。

 フリィは、あの日アーカイブスの夜空に上がった燃えるように真っ赤な花火を思い出しながら言う。

「セプたん。これからもよろしくね」

「あー……、まあこちらこそ、よろしくな」

 真っ直ぐに笑顔を向けるフリィに、アクセプタは照れたように自身の髪を掻きながら素っ気なく答えた。

 直後、夜空に色鮮やかな花火が一際大きく咲いた。

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短編集 吹雪舞桜 @yukiuta_32

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