Day17『砂浜』:ある準備中の話
「あ、見て。ここにも枝があったよ」
「本当だ。それも焚き木に使えそうだね」
「たくさんあってよかったね」
「そうだね。それじゃあ、そろそろみんなのところに戻ろうか」
「うん。戻ろう」
彼の言葉に頷いて来た道を振り返った。
砂浜にはここまで歩いてきた二人分の足跡が点々と続いている。そのスタート地点にいるはずの仲間たちの姿はここからでは確認できない。どうやら、ずいぶんと遠くまで来てしまったようだ。
旅の途中で受けた採取依頼のため、海辺に到着したのは今日の昼頃のことである。目的の生物は夜行性で日が出ているうちは姿を現さないから、夜までキャンプをして待つことなった。そのためキャンプの設営と食料探しと焚き木探しを分担してすることになったのだが、仲間のうちの一人が海風に弱くて参ってしまっているのと他の一人が砂浜に足を取られて盛大に転んで足を怪我したので、残りの六人でそれぞれの準備に分担した。
怪我人の手当てをしつつキャンプ設営を任された姉のような少女から、焚き木集めるついでにサワガニをゲットできたら夕食が豪華になるよ、とこっそり教えてもらったけれどこの道中で一匹も見つけられなかったことだけが悔やまれる。彼女と一緒にキャンプを設営するキラキラと眩しい少年にサワガニの件をこっそりお願いしたから、彼が数匹ゲットしてくれたことを願うしかないだろう。海で釣れた魚を焼いて食べるのも美味しくて好きだけれど、たまにしか食べられないカニも美味しくて大好きだ。
「夕食になるまでまだ時間があると思うから、焚き火ができたら少し遊ぶ?」
隣を歩くモヤモヤした雰囲気を纏う優しい少年が、そう言ってニコニコと笑った。旅の途中で砂浜を歩いたことは何度もあるけれど、こうして滞在するのは初めてで。砂浜で遊ぶなんて全く想像できない。
「うん。何して遊ぶの?」
「棒倒しとか、絵を描くとか……砂のお城を作るとかかな。どれがやりたい?」
「全部やってみたい」
「いいよ。みんな誘って遊ぼうか」
彼の言葉に大きく頷いて答えた。
何てことない依頼の最中に、こうしてまた仲間たちみんなとの楽しい思い出が増えていくことがとても嬉しく感じて、早くみんなで遊びたいなと思った。
その気持ちに背中を押されるまま走り出そうとして、目の前を横切る小さな影に気付いた。
「あ。いた」
パッと飛び出して、その小さな体を鷲掴む。すぐ近くにいたもう一匹も逃さず捕まえることができた。両手にサワガニを掴んで彼を振り返る。
「見て。豪華な夕食がいた」
両手を突き出して手の中のサワガニたちを見せた。
ふと、姉のような少女や妹みたいな妖精を思い出して、彼女たちを真似して口角を上げる。
目が合った彼は少し驚いた後で嬉しそうに笑った。
「本当だ。すごいね」
歩くのが大変で土よりも熱い砂浜は今まであんまり好きじゃなかったけれど、楽しくて嬉しくて、何だか好きになれそうだと思えた。
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