Day14『お下がり』:ある作業中の話

 ティーポットほどの大きさの小鍋に、魔法で水が注がれる。そこへ、小瓶に種類別に入った粉や液体が手際よく投入されていくのをジーっと見つめていた。不思議な色をした鍋の中身がティースプーンみたいな匙でくるくると混ぜられていくと、いつの間にかによく見知った回復薬の色に変わっていた。

 仲間のうちの一人が薬の調合は魔法みたいな作業だと褒めていたことを思い出し、確かにその通りだと思った。調合に使われる薬草やハーブの匂いに包まれたくて時々彼女の調合作業を見学にくるのだけれど、見る度に感動してしまう。

 気付けば薬の調合は終わっていて、彼女は完成した回復薬液を空の瓶に順番に注いでいく。それを見守りながら、ふと、思ったことをそのまま口にした。

「その鍋、ずいぶん古そうな感じですね」

「ふふ、結構ボロボロでしょ」

 作業の手は止めずに、彼女はへらりと笑って答えてくれた。

「この鍋ね、私が薬師として一人前になった時にお母さんが譲ってくれたんだよ」

「まあ。そうなんですね」

「貰った時からボロボロだなぁって思って聞いてみたら、お母さんも先代から貰ったって言ってたし、その先代も先代の先代から貰ったらしくて、ずっと古くから使われてるんだって」

 三本分の回復薬が出来上がったところで、鍋の中身は空になった。空っぽになった鍋がカンッと乾いた音を立ててテーブルの上に置かれた。

 テーブルに頬杖をついて彼女を見やる。

「素敵です。受け継がれてきた鍋なんですね〜」

 笑いながらそう言えば、彼女は意外そうに目を丸くした後で鍋をジッと見つめた。

 ややあって、彼女はこちらを見てパッと笑い返す。

「貰った時はお下がりかぁって思ってたけど、そう言ってもらえると、この古い調合鍋も悪くないよ!」

 その小さな調合鍋はところどころに傷や焦げなど長年使い込まれた形跡はあるけれど、一目見ただけで大切に使われているのがわかる。きっと彼女もたくさん愛用した後で弟子となるその次の代へお下がりの鍋を受け継いでいくんだろう。

 使い終わった鍋を水魔法で大切そうに洗う彼女を見守りながら、その日が来るのが楽しみだなぁと、そう思えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る