スマートフォンは7時54分と語っていた

僕は走っていた。これに間に合わなければ遅刻してしまう電車に乗るために。僕は越えていた。巨大な対脂肪の塊、老婆の群れ、高低差のある地形、これらの障害を。そうして電車の目の前に来たのである。


だが、既に扉は閉まっていた。何度もドアを殴打した。奇跡を願い、祈りを捧げた。それでも扉は開かなかった。電車は行ってしまい、僕はただ倒れた。


何がいけなかったのだろうか。風呂代わりのシャワー前に朝食を食べてしまった事だろうか。1つの改札に固執し、脂肪の塊のような感触を得るまで仁王立ちした事だろうか。非人道的に老婆をなぎ払わなかった事だろうか。どれを考えても心の中は空である。


どうしても他責思考は抜けない。僕はスマートフォンを見た。見るだけ。何かをする気力も無かった。ただ倒れて立ち上がる事に全力を尽くしただけだった。


見ている内に次の電車が来た。この路線のこの時間は早い。まあ間に合わないのだが。それでも僕の脚を動かす理由には充分だった。


そして僕は座り込んだ。電車の隅っこの席に。スマートフォンの時計は7時54分と、語っていた。

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