第6話 駒の役割

6月21日。大日は5月初旬から首位を直走り、2位とのゲーム差は6に広がっていた。ただ、順風満帆とは言えなかった。昨日の試合で、2番手ピッチャーの田中智成が故障した。2年連続で2桁勝利を挙げた彼の離脱は、首位に立つには重すぎる代償だった。誰が支配下の椅子に座るのか。2軍の投手たちには、それに対する高揚感が漂っていた。本命は去年1軍で先発、中継ぎ合わせて17試合を投げ、6勝を挙げた坂田浩平だった。佐藤はその対抗馬の1人に過ぎなかった。「誰が上がるんだろうな」「坂田か」そんな声が聞こえてくる。上がるのは坂田だろうな、と佐藤も考えていた。自分は坂田より先には上がらない。上がれないのだ。実績を評価する吉本の眼には叩き上げの鈍など映っていない。2軍では、確かに坂田より佐藤の方が、防御率は低い。しかしながら、坂田の方が吉本が必要とする「駒」の役割を忠実に果たせるような気がした。そう考えていると、秋田が、佐藤のもとへやってきた。なぜ、秋田が自分のもとへ?その疑問を解けないまま、秋田はこう言った。「佐藤、明後日から支配下だ」

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