第4話 勝負の結末

7回表、佐藤の出番が回ってきた。マウンドに向かう前に、ブルペンにあった紙コップに水をとり、それを一口飲んだ。ピッチャーたちから力水と呼ばれるそれは、佐藤の緊張の糸を少しほぐした。「やってこい」低いバリトンが聞こえた。佐藤は無言のまま頷き、任された仕事場へ足を踏み入れた。

 18mほど先に待つキャッチャーミット。前までは小さく見えたが、今日は一段と大きく見える。錯覚という事は分かっている。ただ何か、自分の中に沸々と漲るものを感じた。バッターは3番、永山亨。去年の首位打者である。ただ、佐藤に怯えは無かった。そして、一つの確信が芽生えた。ただ彼に向かって、自分の全力を叩き込むだけ。その勝負の末に、解答こたえが出てくるのだと。それに基づいて、一球目を投げた。ストレート。高めに浮いたボール球。甲子園の時よりは球速が落ちているようだが、肩が温まっていないだけだろう。二球目。高めに少し浮いたはずの向かってくるスライダーに、左の好打者ー永山は顔を歪ませた。2ボールになっているものの、佐藤は不利だと感じなかった。むしろ永山が追い詰められていくようだった。迎えた三球目。低めにストレートを投げ込んだ。それがストライクに、きれいに収まる…そう佐藤が感じた瞬間、永山のバットがボールを叩いた。時間が停滞したかのような衝突が生まれ、グシャリと鈍い音が響いた。永山の仕事道具バットは粉々に折れた。打球は三遊間を抜けた。単純に言えば、佐藤の負けであった。ただ、佐藤は恍惚が、自分の渇望を満たしてくれるような気がした。塁上の永山が、ヒットを打ったというのに青ざめた顔をしている。勝負とは別ベクトルの満足がその空間にはあった。次は4番を相手どる。そう思った矢先、紅組の監督…吉本がベンチを立ったのが見えた。予定調和だった。

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