第2話 面白味のない日々

車のフロントガラスに、見慣れた球場がわずかに映った。球場まで続く道路を、青いランプが照らし続けた。止まる事を拒むように。自分の居場所は初めからそこであるかのように。そのまま球場に着いた。駐車場にある、自分の指定席に車を停めた。そして、球場へ向かう。あまりにも機械的な動きだった。球場のグラウンドに足を踏み入れた。視覚の限り、いつも通りの人間が、いつも通りのトレーニングをしている。自分もそれに加わり、面白味のない日々が始まる。はずだった。「おい、みんな集まれ」2軍監督の秋田義実が召集をかけた。「大事な話がある。1軍と2軍合わせて紅白戦をする。期限は3日後だ」秋田は、端的に重要事項だけを羅列した。皆が困惑しながら、1軍の選手と戦えることに喜色を浮かべる中、佐藤は何処か冷めていた。首切りか…刹那、予感が走った。2軍の人間たちに、1軍という冷たいほどの現状を突きつけ、球団の外に追いやるのだろう。2年前に1軍監督となった吉本健三はそう言う人間だと、佐藤は確信した。笑みを浮かべているが、その目は徹底的にシニカルだった。ミスに怒号をあげる事はない。積み重ねれば自分のポジションを失うだけ。それがチームの顔だろうが、遠慮はない。選手を駒のように扱うだけ。つまり、紅白戦で「要らない駒」を、外へ捨てる。それは…「自分だろうな」佐藤はそう心中に呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る