反骨のエース

銀華

第1話 消した反骨

今でも確かに覚えている。あの甲子園の快投も。あのマウンドの感触も。回転するボールの縫い目も、自分の投げる写真が、一面を飾った事も。昨日の事のように思い出す。「俺が輝ける日は、また来るのだろうか…」その疑問は1人虚しい部屋の中へ消えた。

 佐藤伸晃は、失望という苦味を口の中に感じながら、大日の2軍キャンプ地へと車を走らせていた。「俺が向かうのは、ここじゃないはずだ」力無い反骨が頭の中へ浮かんでは、消える。昔の栄光へ縋りたくなった。甲子園2回戦での完全試合。準決勝では敗れながらも10回1失点。ドラフトでは7球団競合の一位。初先発で完封。かつての自分が成し遂げた「偉業」が、今は重くのしかかってくる。3年目までに1軍であげた勝ち星は僅か5勝。自慢だった160kmのストレートは、打者を抑える武器にならなかった。怪物という枕詞は気付かぬうちに消えた。「仕方ないさ」まだ残っている自分の反骨心を消し去るように、そう反芻した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る