第5話 奴隷落ちにご注意を

俺が刈り取られた意識から目を覚ますとそこは鮮やかな色彩に包まれた部屋の中だった。


鼻には官能的な香りが漂い、辺りを見渡すと優雅な調度品が配置された空間が目に飛び込んでくる。


俺が寝かせられていたベッドは柔らかなシルクのシーツで包まれ、官能的な光が煌めく。

壁には花の絵画が掛かり、情熱を刺激する照明が幻想的な雰囲気を作り出していた。


目に映る光景から判断するにここは娼館または連れ込み宿の一室のようだ。

世の男なら、似たような場所に一度は訪れたことはあるだろう。


しかしどんなに歳を重ねても、魂が幾つになってもこういった場所に来ると興奮が宿ってしまうものだ。


目の前にいるのが俺を罠に陥れ、挙げ句の果てに拉致して見知らぬ場所にまで連行した張本人でなければの話だが。


「くそ野郎!」


俺は反射的な動きで老人に飛びかかろうとする。


その時、突然右胸の辺りが輝き、激しい痛みが身体を襲った。まるでナイフでおもいっきり切り刻まれたみたいな鋭い痛みが左胸を中心にして徐々に徐々に全身に広がっていく。


激しい痛みに耐え切れず、俺は床に身を投げ出した。突然の衝撃に言葉は途切れ、口元からは一言も言葉が出ない。


「馬鹿じゃのう。とっくに奴隷契約をすましておるわい」


老人は呆れたような表情を浮かべ、ため息をついた。


奴隷、、、人間でありながら人間としての名誉、権利、自由を認められず他人の所有物として取り扱われる存在。


法を犯したもの、借金を抱えたもの、違法な奴隷狩りにあったもの。


奴隷に落ちる理由は人それぞれだが一度奴隷に落ちてしまえば最後、主人に支配下に置かれ逆らうことは愚かどんな命令をされようと拒む事ができなくなる。万が一にも主人の命令を拒もうとしたり逆らおうとするとさっきの俺みたいに刻まれた魔法陣が光り輝き重度の呪いが奴隷に襲いかかる仕組みだ。


それこそ命を代価にするような強力な呪いが。


「おい何を寝転がっておる。さっさと座らんかい。」


俺は老人に命令され、痛みが残る身体を何とか起こし近くにあったベットに腰掛ける。


「奴隷にまでしやがって。俺をどうするつもりだ。騎士団にでも突き出すつもりか?」


俺は胸の痛みを恐れながなも老人に問いかける。


インキュバスは数多の権力者を没落の道へと導いたいわば天敵と呼べる存在だ。

そんな能力を唯一、街や都市で使うことが出来る俺を秘密裏に調査、拘束して国に突き出しとなれば国王の覚えは大分良くなるだろう。

それこそこいつが商人であるならば大いなる恩恵をもたらすはすだ。御用商人の地位を手に入れられれことさえ夢ではないだろう。


「馬鹿じゃのう。そのつもりならお前をこんなところに連れて来んわ」


「あぁ」


確かにそうだ。老人の言う通りだ。

国に突き出すつもりなら俺は既に牢獄の中にいるか、処刑台の上に立っていることであろう。


でもそれじゃますます理由が分からない。

老人が何故探し求めるために莫大な費用と時間を費やしたのか、その謎に思考は囚われた。

まさかこの老人は俺にけつの穴を開発して欲しいのか?そう言う特殊性癖をお持ちのかたなのか?


自分の思考に疑問を抱くほどの愚かな発想が頭に浮かび上がる。


「馬鹿な事を考えておるの顔をしちょるのぉ」


俺の邪な考えは顔に滲み出ていたようでようで、老人に瞬く間に察知されてしまう。


「そんなに恐れる必要などはないわい。お主にちょっも仕事を頼みたいだけじゃよ」


「仕事?何をだ?」


「何、お主にぴったりの仕事じゃよ。おい連れてこい」


「かしこまりました。旦那様」


老人の言葉とともに扉がゆっくりと開き、メイド服に身を包んだ女性とが二人入ってきた。


声の主の女性は漆黒の宝石の輝きを宿した黒髪を丁寧にポニーテールに束ねている。


表情は無表情に近いが、冷静なまなざしと鋭い輪郭を持つ彼女のクールな表情はまるで氷の女神かのように静かで美しく近寄りがたい雰囲気を醸し出す。


姿は見た事はないがその冷徹な声の響きは聞き覚えがあった。恐らく酒場で俺を床に組み伏せた女だろう。


もう一人は、肩口までの長さの黒髪を持った愛らしい外見を持った女性だ。

ふんわりとした髪はまるで天使の羽根のようで、表情はキラキラと輝く宝石のように魅力的だ。

人形のような愛らしい容姿は無邪気さと純真さが宿っておりいかにも男受けしそうな雰囲気を醸し出している。


「この女はのぉ、わしの屋敷で少々置いたをした女じゃのう」


老人から目線を外しショートカットの女の方に目を向ける。確かに逃げ出さないように縄で後ろ手を縛られている。


「まぁ仕事は置いておいて、ひとまずワシに歯向かった馬鹿女にお仕置きをせんとのぉ。おいお主この女をワシの前で抱いてみろ」


「何で?」


俺の口から素直な疑問が飛び出た。


「まぁお主の能力が見たいのじゃよ」


不気味な顔つきで、老人が歪んだ笑みを浮かべた。

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