♯8 キスの味 後編
「……」
「……」
「……」
「お、お兄ちゃん……」
若菜の顔が真っ赤になっている。
「今はお兄ちゃんはおかしいだろう」
「……」
「……い、い」
「い?」
「
「……っ」
「なんで目を逸らすんですか!」
「何か照れるなぁって」
「そ、そんなこと言ったら私もですよ!」
「……若菜」
「な、なんでしょうか!? いきなり名前を呼んで……」
「呼んでみたくなっただけ」
「……っ」
「若菜」
「い、
「若菜」
「
「……若菜」
「
「若菜」
「
なにかを確認するかのように何度もお互いの名前を呼び合った。
「……口調」
「え?」
「せっかく今日は二人だけなんだから」
「……」
「……お兄ちゃん」
「ダメじゃん」
「あっ!」
「呼び捨てでいいのに」
「いきなり呼び捨ては恥ずかしいよぉ」
「なんか呼び方がいっぱいあるもんなぁ……兄さんとかお兄ちゃんとか」
「……じゃあお兄ちゃんはなんて呼んで欲しいの?」
「恋人同士になれるときは名前で呼んで欲しいな」
「
「うん、そう言うのって慣れだけだから」
「慣れたらお母さんの前とかでも呼んじゃいそう」
「そのときはそのときだろ」
「……いいの?」
「もう気持ち抑えられないし」
「んっ――」
俺は再び若菜にキスをしてしまった。
◇
それから随分時間が経ってしまったが、俺たちはようやく夕食の準備を終えることができた。
俺も若菜の料理を手伝うことになったので、一人でやるよりは早く終わったと思う。
「
「一人で食べられるって!」
「たまにいいじゃん! こんなに堂々と彼氏彼女できるの今日くらいしかないんだから」
「というか、なんで二人しかいないのに隣同士に座ってるんだよ俺たちは!?」
「くっつきたいから」
「……」
「あっ、黙っちゃった。
「照れてるの!」
「可愛い~」
どこかふっ切れた若菜が、まるで小悪魔みたいに笑っている。
「はい、口をあけて」
「はいはい……」
「あーん」
「……あーん」
「美味しい?」
「……美味しい」
「はい、じゃあ私も」
「?」
「私にも食べさせてよ」
「あー、そういうことか」
「
「だって、まさか若菜が俺のこと好きでいてくれるなんて思わないだろう」
「にぶちん」
「うるさいなぁ、ほらあーん」
「あーん」
「美味しいか?」
「うん! 樹さんに食べさせてもらっていると思うと倍美味しい!」
「言ってて恥ずかしくならない?」
「……なる」
「それにお互いの箸使ってるから間接キスになっちゃってるし」
「さっき直接したじゃん」
「……」
「あっ、また照れてる。
「うるさいなぁ」
「もう一度する?」
「……若菜ってもしかしてキス魔?」
「そんなの分かんないよ。初めてだったし」
「キスの味とかよく分かんないこと言ってた――」
「んっ!」
今度は若菜からキスされた。
「黙らせた」
「やっぱりキス魔じゃん……」
「
「……で、味はどうだったんでしょうか?」
「ハンバーグの味がした」
「直前まで食べてたやつじゃんか」
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