第16話


「さて、わかると思いますけどー、行きましょうかーここ」


「はい!」



 約束の時間は、夕方なのでまだ時間がある。今回の内容について聞いてみる。


「まあーチカちゃんに分かりやすく言うなら、佐々木っつー汚いおっさんが買った賜物、つまりはゴフトによる製作物は、ペットボトルの方だったんですよー」


「すごいっ、そんなことまでわかるんですね」


「だって水が全然入ってないけど、賜物だって解ったでしょうー?」


「ああっ! てっきり残った水滴に反応したのかと思ってました。は、初めて賜物に触れたものでして……」


  言われてみれば確かにと思い、気づかなかったことに恥ずかしさを感じる。


 目的地へ向かう途中で「疲れちゃいますよねー」と飲み物も奢ってくれて……キャラメルフラペチーノを飲んだ私は、今日だけで大分ミズキさんに懐いていた。

 なんというかどんと構えた感じでユルいのが安心感がある。




△△△


 件のチラシに書かれていた場所、人気の少ない廃公園に私たちが着くと、くたびれた洋服を着た少年が手持ち無沙汰に、止めた自転車に寄りかかっていた。自転車のカゴには使い古されたトートバッグが入っている。


 先ほどの男から聞いた、子供の特徴とも一致している。そのキャップを目深に被った少年はちらっとこちらを見た。


 皺だらけになったチラシを無理やり伸ばしたものを、振りながら近づいていくと少年の表情は、私たちが近づく度にくぐもっていった。


「こんにちは、チラシ見てさ。売ってくんないかなー? 神の水」


 ミズキさんがそういうのを聞きながら、少年は値踏みするように私たち二人をぎょろぎょろと見た。その頬は痩せており、目はギラついていて怖い。体は骨張っているが、中学1年生くらいの体格のようだ。そして値踏みが終わり次第、彼は怒鳴った。


「お前ら客じゃねーな‼︎」


「んー分かりますー?」


 こてんと首を傾げたミズキさんは、逃げないようにと自転車のハンドルを押さえつつ、立ち塞がる。


「まあまあーお話ししませんかー?」


「くそがっ、話なんかするかよ! 幸せそうな”モノ”しやがってっ! 俺を馬鹿にしてるんだ‼︎」


「わーあ」


 ミズキさんを両手で突き飛ばして、少年は自転車へとまたがり走り出した。一瞬、ミズキさんに触れた時に「はっ?」と疑問をこぼしていたが、ゴフテッドに対する反射だろう。

 緊張感のない反応をしたミズキさんは地面に倒れ込む。


 羽田さんに研修してもらったときに教えてもらったが、ゴフテッド同士が触れるとなんとなく分かるのだ。あー自分とは別の神の寵愛受けてるな、というような感覚だ。



 ま、あ? それは置いておいて……あり得ないっ!?あのクソガキ! ミズキさんを突き飛ばして逃げようとするなんて、しかも自転車が速い速い。きっと何かのゴフトだ。


 私の身体はミズキさんを起こすよりも先に、少年を追うため走り出していた。



 どうしよう? 止めなきゃ、私が止めに行かなくちゃ。ミズキさんは道中で、自身のゴフトの制御は目を封じることでしているし、戦闘にはあんまり向かないって言ってた。つまり、何かしらの解決方法を持っているわけじゃない、と思う。



 でもさ、私なら……私ならできるんじゃない?

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