第13話

 研修という名のゴフトを使う練習に明け暮れる日々を過ごすことになった私だが、毎日羽田さんがいるわけでもない。

 今日は面倒を見てもらえないそうで、別の人にお世話になることになった。



 八雷神やくさのいかづちのかみの順序付けの宿題はすでに自分なりに順序は決めている。ただ理由はふわっとしたものはあるのだが、言語化し文章に起こすのが面倒で後回しにしてしまっている。


 今日は羽田さんはいないから、まだ提出日ではないのでセーフだ。





 羽田さんに紹介されたもう一人の教育係が、日目ひめミズキさん。黒髪ロングで両サイドにリボンのように髪を結っていて、リングのピアスを複数つけて、医療用眼帯。

 彼女の座るデスクの横に今私は立っている。


 まじまじと見てしまうが、スーツで多少打ち消されているが正直言って、病み系女子の代表のような出で立ちだ。今もピアスをさわさわと右手で弄んでいる。



「ヒメさん? ですよね? 国海チカです、よろしくお願いします!」


「チカちゃんね、よろしくお願いしますー。アタシは、お日様の『日』に目ん玉の『目』で日目、んで名前はミズキって言います」



 いきなりのチカちゃんも呼びに驚くも、気安い彼女の雰囲気に飲まれて、まあ何の問題もないかという気持ちになる。


「あんまり苗字が好きではないのでミズキって呼んでもらえると幸いですー」


 彼女はハスキーなその声で、おっとり且つ若干チャラい口調でそうお願いすると、欠伸をしつつ口を手で隠した。苗字呼びは苦手とのことなので、私は『ミズキさん』と呼ぶことにした。




 私はミズキさんが右目に医療用の眼帯をつけているのがどうしても気になってしまう。眼帯自体たまにしている人は見るが、なぜつけているんだろう?


「右目、ご病気とかですか?」


 おずおずと聞くと彼女は後頭部をガシガシ掻きながら、目線を逸らした。あんまり聞かれたくない話題だったらしく、失礼をしてしまったなと私は肩を縮こまらせた。


「ああ……これはゴフトの関係でつけてますー」


 観念したような彼女に、これは質問を続けても良いのではという勘がする。ゴフトな関連なのか! と胸がざわめく。


 今まであまり周りにゴフテッドがいなかった環境だったので、こうやってゴフテッドが沢山いるとワクワクしてしまう。とはいえ私も今ではゴフテッドなのだが。

 

「おおっ‼︎ どんなゴフトなんですか?」


「うーんとー……ひ・み・つ」


 人差し指を3回振ってはぐらかされてしまった。単なる趣味ではなくゴフト関係と理由がわかっただけでも少しスッキリしたものか。

 ミズキさんは自身のデスクの引き出しを開けて、書類を掻き分けながら声をかけてくれる。


「ゴフト制御優先とは聞いてるけど、チカちゃん理性強めなのも聞いてるんでー、ちょっと今日は仕事の見学にしてみましょー」


「えっいいんですか?」


 てっきり今日もずっとゴフトに慣れさせる作業が続くかと思ったが、そうでもないらしい。


「いいのいいのーはい、これ資料」


 目当てのものを掴んで、その資料を手渡される。しかし、資料を見るよりも先ほどのミズキさんの言葉に引っ掛かりがある。私は恐る恐る尋ねた。


「あのう……理性強めって?」


「あれー? 聞いてないですかー? スカウト理由」


「いや、聞いてないですね」


「支部長言ってましたよー、チカちゃんがゴフト貰ったときの被害が雷系のゴフテッドの中でもとっても小さかったーって!」


「そうなんですか?!」



 いや初めて知りました。私のスカウト理由!! 理性強めだからスカウトされたのか。


 思えば主にはポット破損と床の焦げつきか……何もないわけではないが、それが理由だったのか。


 まあ人格にも影響が出る可能性があるとかないとか言われている理性薬を常用するようになったが、特に人格の変化は自分では感じられない。


 こういうのも理性が元から強いということなのだろうか?


「理性薬で崩れるような人は、そもそも働くの向かないんですよねー、ここ」


 私の心を読んだようにミズキさんは言った。そうなんですね、なんて返事をした。


 ミズキさんは少ししたら出掛けると言い、パソコンに向かってカタカタと作業を始めたので声をかけるのも躊躇われて、私は背向かいの自席に腰掛けて資料に目を落とす。

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