第11話

「それで、まあ、僕はゴフトを把握しコントロールできるようになっている。でも国海さんはまだまだ慣れていないし、その出力もまったく選べずに危険な状態なんだ」


 確かにその通りだ。今の私はオンかオフかくらいしかない単純なスイッチみたいなもので、コントロールするためには練習が必要だろうなと思っていた。


「ええ、そうですよね」


 私は素直に頷いた。それを見て「まずそうだな」と顎をさすりながら羽田さんは話を続ける。


「君のような能力を制限するには、最初から段階を決めておくのが一般的かな。簡単にいえば5段階くらいで強さを決めておくとか。あとはそうだなあ」



 羽田さんは携帯端末を取り出すと操作しようとしだがすぐに手を止めて私の方を見た。


「ちょっと座学だからね、場所移そうか」


 そう言われて、立ちっぱなしも辛いからと屋内へと移動する。



 私は椅子を勧められたままに座り、羽田さんは再び端末を取り出して、壁をスクリーン代わりに資料を開いた。


「一般人のゼウスっ子の講習の時に見せるものなんだけどね……」


 雷のゴフトを受ける者が非常に多いゼウスのゴフテッド用に作られたという資料を見ながら説明を受ける。


「ゼウスがなんで雷を使うか知っている?」


「ええ……と、いえ。どうしてですか?」


 私は神話にはそんなに明るくない。

 イザナミについては、ゴフトを受けてからは毎日のようにネット上で関連記事を読んでいるから付け焼き刃程度の知識はあるが、他の神の権能の由来などわからない。



「ゼウスは色々あって父親のクロノスと戦っていたんだけど、その戦いの過程で、3巨人、まとめてキュクロプスと呼ばれる神を助けたんだ」


【キュクロプス】

1.アルゲス  − 稲妻

2.ステロペス − 雷光

3.ブロンテス − 雷鳴


 ひとつ目の巨人が3柱、名前と司るものが画面に表示される。なるほどね。


「助けられたキュクロプスはゼウスに感謝して、無敵の武器である雷霆らいてい、いわば雷の力を授けましたとさ」


 めでたし、めでたし。とでも続けそうな口調で彼は言った。ゼウスが雷を使うイメージがあるのは、この貰った力のおかげなのか。

 また一つ神雑学が増えた。


「それを踏まえてね、ゼウスのゴフトをできる限り無害に使いたいなら、どうする?」


「無害にですか……」



 まあ順当に考えるならば、3つで1つのゴフト、それを細分化して考えろってことだろう。

 その考えを告げると褒められた。さらに無害化するならと考える。



「電光だけ、光だけ出せば安全じゃないですか?」


 我ながらナイスアイデアだと思う。だってゴフトを使って、すべて光として使えばそれはただの目眩しだ。


 音でもいいかもしれないけどね。なんであれそういうふうに分けて使えれば広範囲に電撃が走り、周囲の人が病院送りになんてならないはずだ。


 まあでも何故か病院送りは、日常茶飯事なのだが……初暴発の人も多いしな。



「うんうん、いいね! そうだね、まあ出来ないんだけどね!」


「え?」


 この流れは正解ではと思っていたところに、『出来ない』と急にトーンの下がった羽田さんの声にぎょっとする。


「エネルギーって色んな形態があるでしょ?」


「はい」

 

「熱、光、音、電気エネルギーやらを含めての雷なんだよね」


 まあそうですよね、そう考えると雷って発電とかに使えないのかな? とか思考が流れていきそうになるのを、押し留めて羽田さんの話に耳を傾ける。

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