第10話
何もない空間に何かの輪郭が創られていく。オレンジ色で、カラスくらいの大きさの羽根が空中に生成されていく。
羽根の先の方だけ少し黒い羽だった。
「羽根……ですか?」
「そう、羽根。僕は審判の神マアトのゴフテッドだよ」
すごい! あれだ、エジプトの心臓と羽の天秤のやつだ! という驚き。
そして羽田「アマト」で「マアト」のゴフテッドか。なんだかややこしいなと思っていると、羽田さん目線だけで笑われた。
まるでよく言われますとでも言うように…………私は声に出してませんよ。
「こう、バトル漫画みたいな感じで技名をいうものかと思ってました。なんかこう、違うんですね」
「技名言うとなんとなく出す技想像つくことあるからね。代わりに番号とかを設けて言っている人も多いね」
言い方はいろいろあるけれど、自分だけが覚えていられるよう且つ順番にはならないようにするのが常識らしい。
1、2、3……と並んでいるよりも3、8、102などととびとびの方が相手が技の数や傾向を推測しにくいとのこと。確かにすぎる。
結局は人による、とのことだから技名を叫ぶ人もいるのかもしれない。
「無詠唱でもできるんですか?」
「無詠唱ももちろんできるよ? ブラフってやつ」
「その羽根をどう使うんですか?」
「これを握りしめて相手を殴る」
私はつい眉間に皺を寄せ、目を見開いた。ちょっと聞いたことが理解できていないみたいだ。どうやら、羽根を握りしめて相手を殴る? マジで?
「まあそうなるよね」
頬を搔きながら羽田さんは説明を続けた。
マアトとはエジプトの女神で冥界に来た人間の心臓を一方の天秤の皿に載せて、もう一方の皿に自身の羽根を載せて、その人間の罪を測るのだという。
つまり……
「罪を量るのにその……殴るんですか?」
思わず訊いてしまった。
私の疑問を聞いた羽田さんは小さく吹き出した後、くっくっと肩を震わせていた。そしてひと段落すると口を開いた。
「僕も最初はそう思ったよ、でも国海さんもわかるでしょう? 力の使い方は神の意思が教えてくれる。自然とわかるものなんだ」
「ええ、まあはい。なんとなく」
確かにどうやったら雷を出すことができるか、今の私はわかる。
手をどうやって動かすのかというように当たり前すぎること、のようにはならないかもしれないが、言語しにくいが確かにその感覚を何となくではあるが知っているのだ。愛情をたしかに感じるのと同じ。
しかし実際に雷を出したことは暴発時とテスト時くらいだ。
なんだか急に自分のギフトが怖くなってしまう。ふんわりとは自分のゴフトを理解しているものの正しく使えるのか、と。
私がモジモジとしている様子を見かねたのか、羽田さんは優しい声色で話を続けていく。
「僕の場合はね、僕が天秤なんだ。こう、僕の中の正義があって、その正義のもとに判断しているようなんだよね、それでもって罪の重い人間ほど僕の拳は重く感じるんだ」
『僕が天秤』という思わぬパワーワードに思考はすぐにそちらへ向く。そして小さな疑問が湧いたのをそのまま聞いてみる。
「ち、力強い正義ですね。あーでも罪のない人を殴ったらどうなるんですか?」
「僕的にはその人がとんでもなく硬く感じるだろうね、相手は痛くないみたいだよ」
殴ったんだ……過去に。ついついぎこちない笑みを浮かべてしまった。
「ははっ、いやまあ反応に困るよね? まあみんなそんな反応だよ」
1片の羽根を握り込んで笑う彼はやたら爽やかに見えた。サイコパスってこういう人なのかな。
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