第9話
「国海さん、こちらが対策局本部の金蚕支部の支部長である
羽田さんは手で支部長を示して私を紹介してくれた。
エレベーター内で事前に「君も簡単でいいので挨拶してね」と言われていたので、羽田さんのアイコンタクトを受けて、会釈しつつ支部長のデスク前へ移動した。
「国海チカと申します。この度は対策局に採用していただきありがとうございます。慣れないことばかりではありますが、精一杯努力いたします」
そう私が言うと、金手支部長はにっこりと微笑んだ。
「まあまあ最初はみんなそうだからね。大変だとは思うけどよろしくお願いしますね」
「はいッ!」
ホッと密かに私は息を吐いた。そんな私を置いて、二人は何やら話しはじめたため数歩下がる。
恐らく彼らが話している内容は私の研修についてだと思った。
改めて支部長を見ると、失礼だが小太りでだいぶん可愛らしいお腹をされている。
以前会った時は真剣な面持ちだったが、今は穏やかな笑顔を浮かべているため、印象が違う。
「……金手支部長、そのような感じでいいですか?」
「うん、頼むよ羽田くん」
話が終わったようで私と羽田さんは一礼して支部長室を出て、私のデスクだという場所へと案内された。軽く研修内容の説明を受けた。ゴフト研修を優先的にするけれど、局としての座学も必要だから最低限やるとのこと。
「即戦力が求められていてね、制圧隊ならば3か月、君のような調査員は2週間が一般的だ」
「そうなんですね……結構短いのですね」
困ったことにね……、と彼は頬に手を当てて苦笑いを漏らすのだった。
その後同室にいる私と一緒に働くであろう人たちに羽田さんは私を紹介して回った。名前は全然覚えることができず前途多難だ。
△△△
運動場へ移動した後、理性薬を飲んだか確認するための検査をされたり、着替えたりしていよいよ研修が始まる。
楽しみでもあったのだ。家などではゴフトを使用することはできないから。
こんな、フィクションのような力を行使することができることにワクワクしない奴なんているだろうか。私は無駄に肩を回してストレッチしていた。
「さて、改めだけど……よく漫画とかでさ、強くなるための練習をするって場面あるよね。でも、君の場合はまず人殺さない努力が必要だよ」
「……おっしゃっていましたね」
「うん」
思わぬ言葉にぎょっとする。いや感じてはいたが羽田さんに言い方にその重大さを改めて実感した気がする。
私は銃を持ったことはないが、私は銃と同じように些細な動作で人を死に至らしめる力を持っているのだ。
「まあ出力が大きい人は割かしいるから安心して。それをコントロールするために勉強や練習をするんだよ」
「うーん君結構喧嘩っ早かったりする?」
「ええ……まあ……若干?」
ヒロくんに侮辱されて、頭が沸騰したことを思い出して、喧嘩っ早くない!……とは言えないなと言葉を濁す。
「僕たちは調査員なんだけど、やっぱりゴフテッドと会って、戦闘になることもある。戦闘が予想されるときは制圧隊と一緒に行くんだけど、そうなることもあるんだ」
「まあ、そうですよね」
「そういったときに身を守るすべと相手を殺さずに無力化、もしくは逃げ切る力が必要なんだ」
羽田さんは少しだけ後ずさって私から距離を取る。
「僕が例を見せるね」
ワイシャツの裾を腕まくりをして手を握る動作を繰り返して何かをチェックしている。
どんなゴフトなんだろうとワクワクしていると「見ててね」と私の目の前に手のひらを見せつけられる。
「一条三項」
何もない空間に何かの輪郭が創られていく。オレンジ色で、カラスくらいの大きさの羽根が空中に生成されていく。
羽根の先の方だけ少し黒い羽だった。
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