第4話


 おっさんは「君の場合もこれに該当するね」と私を指差した。


「よく聞きますよね、でも自分で体験するなんて初めてで。まあはい、イザナミノミコトでした」



 正直自分がゴフトを貰った意味がわからない。彼氏にすっぴん見られて笑われただけで?

 いや、私的はめちゃくちゃショックだが……それで貰って良いものなのかが疑問だ。



「ところで話は変わるけど、彼氏さんにはこっちから連絡はすでに取ってあるよ。ゴフテッドによる器物損害についても最初の暴発だから罪とかはなく君が損害賠償する必要もないから」


「そうなんですね、心配だったんで良かったです。もう彼とも別れます」



 ハハっとおっさんは笑って、「そうした方がいいかもね」と言った。


 もはやゴフトのせいで彼氏のその後など考える余裕などなかったが、いい感じにあちらで気を配って色々してくれたらしいことがおっさんの口から語られた。


 そしてどうやらおっさんの役目は終わりのようでペンを胸ポケットに差し込み、書類を脇に挟んで部屋から出ていった。


 出口で何やら誰かと話しているようだったが話し終わったのか、その話していた相手が入れ替わるように入ってきて、ガラスの向こうで私の前に座った。


 身体は少し、まあお腹は出ているが仕事ができそうな感じの30代くらいの男性だ。




「長時間拘束して申し訳ございません。私はゴフテッド対策局の金手かなでと申します」



 金手と名乗った男はガラスの向こうの椅子に座って話し始めた。この人も何かの書類を持っているが、もしかしなくても私についての書類だろう。


 挨拶しかしていないが、さっきのおっさんと比べて緊張感のある空気が私と男との間にできていた。



「いきなりこんなことになって混乱しているかと思います」


 ゆっくりと聞き取りやすい声で話し始めた金手さんは一般的にみんなが知っているようなゴフテッド対策局の概要を教えてくれた。


 もちろん知っていると思うがという前置きはあったが、今やそんな常識を知らない人間はいないだろうに。舐めているのだろうか?


 曰く、3年前にインドネシアでアッラーの声を聴いたと言った男が現れた。その男は超自然的な力を使いアッラーから賜ったものだと主張した。そのほぼ同時期に続々と世界各地で神の声を聴き、力を得た人々がいた。


 現在、日本はゴフテッドの出現数が総人口比率で世界1位、約2000人程度のゴフテッドがいるとされている。混乱の最中作られた組織が「ゴフテッド対策局」である。ゴフテッドを雇用しゴフトに関する事故・事件の解決にあたっている。


 その組織の役割は警察に似ている。しかし超自然的な力を相手に治安維持に貢献する役割を担い始めてわずか3年。


 はじめこそかなり情報もデマばかりで国内がパニックになっていたが、安定した役割を果たせるようになってきているところだ、とニュースでやっていた。


 まあニュースでもよく特集されているようなペラい内容に「まあ」「はい」「聞いたことあります」と相槌を打つ。


 そしてそんなつまらない話がひと段落すると、おもむろに彼は告げた。


「単刀直入に言うと君にはゴフテッド対策局に入っていただきたいと思っています」

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