第3話

 警察やらゴフテッド対策局員やらが到着し、私は取り押さえられたかもしくは保護された。どうやら話を聞くに彼氏も800に通報していたようだった。


 あんな男なんてどうでもいいや。マジで最悪としか言いようがない。

 確かに私は化粧をしていました。眉毛もなく目も小さいつぶらな瞳です。鼻もがっつりシャドウ入れて高く見えるようにしています。マスカラ塗って睫毛も伸ばしています。


 だからって私のすっぴん見てあの態度なに? 失礼すぎだろクソがっ‼



 そんな荒ぶる心も関係なく私は移動することになった。ただしその前に薬を投与してできる限り暴発を防ぐ必要があると言われた。


 看護師に心を落ち着かせるための注射を左腕に打たれて5分もしないうちに、沸騰する怒りが頭からベールを被るようにサーッと血の気が引いてくる。思考がクリアになっていくように感じる。




「効いてきたみたいです」


「効いてきましたか、気分が悪いなど体調で何か悪いところはありませんか?」



 少し離れて私を見守っていた看護師に言われた通り、効果が表れたので報告する。


 ちょっとだけ気まずいのでパーテーションでも欲しかったがこの状況でそんなものはない。いやもしかしたら市街地でのゴフト暴発などであったらあるのかもしれない。



「特にありません。……というか注射なんですね、錠剤のイメージがありましたから」


「緊急性が問われるので今回は注射ですね、錠剤に比べて効果が強くすぐに表れますから。よくテレビとかで言われている有名な錠剤は……今後常用することになります」


「へえそうなんですか。やっぱり飲むことになるんですね」



 感心を示し、常用薬ができるのか……飲み忘れないかな? とか少し不安になった。そのあと軽く問診をされて看護師は去っていった。


 また先ほどまで必要最小限失礼にならない程度の応答だけして、ムスッと無言で注射を打たれていた私が普通に話せる程度の理性が戻って来ていたことには驚きを感じたものだ。




 移動する前に、すっぴんだしパジャマだったので着てきたワンピースに着替えさせてもらった。ただし化粧はさせてもらえなかったのですっぴんのままだ。


 ただ、これを着て後悔する……顔面を作った後でないと着る資格がないお気に入りのワンピースは顔と服とで絶望的なアンマッチを引き起こしていた。

 内心失敗したと思いつつもお願いして着替えた手前パジャマに戻るのも憚られる。このまま移動することになり今度は悲しみから涙が出そうだ。





 もうどうにでもなれ。


 何も考えたくない気分だった。





 車に乗って拘置所にでも連れていかれるのかと思ったが、どうやらゴフテッド専用の特別頑丈な部屋がある施設に連れてこられたようだった。



 頑丈そうで無機質な部屋に通されて、強化ガラスの前にある机に座るよう指示された。

机の前にある椅子に座る。机の上にマイクとスピーカーが置いてありこれでガラスの向こう人と話すようだ。


 あとは何というか警察ドラマであるような雰囲気で、でも緊張させないようにかタメ口のおっさんから取り調べを受けた。


 ここに来るまでにだいぶ冷静さを取り戻したゆえに、とてつもない羞恥心と後悔が押し寄せてくるなか私は聞かれたことに対して正直に答えていった。






△△△


「じゃあ何度も確認して申し訳ないけど、彼氏さんの態度や言動でショックを受けたときに女の声が聞こえてゴフトを貰ったということだね?」


「はいそうです」


「そしてその神はイザナミで合っているかい?」


「はい合っています。名乗られたわけではないんですけど、イザナミだって確信したんです」


 今だってそうだ。自分の中にある大きな力が認識できて、イザナミが私を愛してくれているのを自覚できたのだ。


 人間の愛なんて自分の中のどう感じるかという感情に過ぎないが、「ああ、これが神の愛!」とでも主張しているような神の寵愛をあの時強く感じた。


 とはいえ注射を打たれてからはその愛はひっそりと、なりを潜めている。




「うん、信じてないわけじゃないよ。だいたいのゴフテッドはみんな神からのゴフトを貰う際に声が聞こえたと言うんだ。


そして今まで聞いたことがなかった神様の名前でもしっかりと認識できてしまうそうなんだよ」


 おっさんは「君の場合もこれに該当するね」と私を指差した。

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