第2話

私は神の声を聞いた。




【かわいそうに……我らが子。裏切られて拒絶される、嗚呼……なんて……辛く憎い、憎い憎い憎い憎いニクイ、ニクいナぁ?】


「ホント有り得ないよ」


 息を吐きだしながら呟いた。あの声は、目の前の彼には聞こえていないだろう。だってこれは……


「え、なに? チカ? もっ一回言って」


【そうじゃろうて。其方に我が力を与えよう。なに、憎い相手に復讐する力じゃ】





 頭の中に響いていた声。イザナミノミコトという概念が頭に浮かび、そしてスッと胸の内側に入ってきた何かを感じた。


 アハハハハハハハハハハハ‼︎‼︎ 久しく感じた事のない全能感、これが……寵愛!! ゴフト‼


 彼はすでにその時には私を見ておらず、お風呂に向かおうとしていた。だが異変に気付いたのか、こちらに戻ってきていたようだ。



 このまませりあがってくる高揚感のままできそうなことをしてみてはどうだろうか。そう私はわくわくした。


 しかしながら端っこに追いやられた私の理性が囁く。本当にしてもよいのか?と。一瞬脳裏に浮かんだ想像ではヒロ君の肉は裂けるだろうなとふんわり思った。



 けれどもそんなことをしたら、私が犯罪者になってしまうではないか!

 私の心は無力感や不安に上塗りされていき、少しでも体を動かすとヤッてしまいそうで、ふっと体の力を抜き膝から床に崩れて無言で涙を流す。


 お風呂場に向かおうとしていたが戻ってきた彼は「どうしたのっ?」と声を上げて慌てた様子だ。そんな彼の横のポットが突然爆発した。ビリビリっと私の怒りに合わせて爆発したのだろう。




「どうしたの? じゃねえーーーよッ‼」


 私が叫んだ瞬間、ポットに続いて近くの冷蔵庫やゲーム機が煙を出し小さな爆発を起こした。

 殺したくはないが、イライラするものはイライラするんだ。私の優しさに感謝するべきところだろう。





「っ、ゴフト…………」



 彼が息を呑んだ後小声で呟いて、じりじりと私から距離を取り玄関へと向かい走り出した。

 何逃げてだよ! いや、いっそ逃げてくれ!


 と声は出ず思っただけだが頭の中が一瞬白く光ると、彼の方へと私が座り込んでいる床からバリバリ? チリチリと黒い樹木の柄が焼きついていった。



「ひっ、た、助けてくださいッ!」


 焼き目は彼には届かず、遠くから情けない男の声が聞こえる。



 この焼き目は以前ネットで見たことがあるリヒテンベルク図形ってやつだろうとフワフワした頭で思った。


 「助けてえ〜」とか言って逃げてったアイツには当たらなかったけど、アイツの大切な家財は駄目になったようだ。



 あー全部全部クソ‼︎ 見た目しか見ないクズだったんだ。アイツに割いた時間が惜しい、イラつく。無性にイラつく‼︎







△△△


 動きたくない。考えたくない。イライラして頭とお腹が熱い。

 しかしながら客観的に自分を見ている冷静な自分もどこかにあって……私はしなければいけないことはわかっていた。


 携帯端末を持って、震える手で800と打った。ゴフテッド関連の緊急連絡先だ。





 ピッ、ピッ……ピ……。電子音が今の私の耳には痛かった。



「はい、ゴフテッド対策局です。どうされましたか?」


「ぁ…………すいません、ゴフトが……あの家を一部燃やしてしまって、その、燃えては」


「落ち着いてください。ゆっくりで大丈夫です。ゴフトの能力が出て、家の一部が燃えてしまったのですね?」


 深呼吸をしてくださいと言われ正直に、息を大きく吸って吐く。少しだけ落ち着いた気がするが深呼吸のおかげか、はたまた電話口のお姉さんの冷静だが温かみのある声によるものなのか。



「はい」


「まだ火は燃え続けていますか?」


 私は周りを見渡す。火や炎って類じゃない、これは雷だ。伝え間違えてしまったが上手く舌が回らない。


「いえ、燃えるというより焦げるというか……小さい爆発というか焦げただけで。わからないですが必要かもしれません。混乱しててすみません」


「念のため消防車も呼びますね、けが人はいますか?」


「いないです」


「わかりました、住所を教えていただけますか?」


 私は「うっ」と言葉に詰まる。住所っていうと郵便番号とかを思い浮かべるが詳しくは知らない。


「あっ……彼氏の家なので詳しくは分からなくて、東京都○○区の△△駅の近くにあるメゾン・サクラカワの401号室です」


「ゴフテッド対策局職員も向かいますので安全な場所に退避していてください」





 よかった、十分伝わったらしい。電話は到着まで繋いだままにしておくように言われ、私は少し玄関側に移動して呆然と彼らを待った。

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