day5 蛍

 披露宴から数日後の夜。森永メロが自宅でくつろいでいると実家から電話がきた。

(ど〜せ帰省しろだのなんだの言われるんだろうな〜)

 心底出たくないが、出ないと出ないでうるさいのがメロの親だ。一度仕事でメールに返事を出さなかったら、24時間以内に返事を寄越さねば警察に連絡すると追撃のメールが来たことがある。

「はい、もしもしー」

「メロちゃん? ママですよ。元気? 風邪引いてない? ちゃんと食べてる? たまにはテオと一緒に実家に顔を見せてよ。ママもパパも寂しいわあ」

 これを聞いて、世の人々はどう思うんだろうな。メロはうんざりする。

 親不孝な娘を思う健気な母親とでも思われるのだろうか。メロからすれば過干渉で子ども離れできない、いい年して甘ったれたおばさんでしかない。それは言い過ぎかもしれないけど、子どもの頃からの過干渉に悩まされているメロは母が苦手だった。

「テオの予定はテオに聞いてよ。双子だからってあいつの予定なんか知らない」

「弟にあいつなんて言ってはダメよ、メロちゃん。たった二人の姉弟なんだから仲良くしてくれないとママ悲しいわ」

 知らんがな。どうしてこんなべったりした人から、わたしのようなサバサバしたやる気のない女が産まれてしまったのか。


 その後も実家に戻れだの料理はしてるのかなどと口うるさい小言が続いたため、メロは諦めてテレビをつける。

 ちょうどニュースが終わる頃で、季節の話題を流していた。観光地で蛍が見頃であること、マナーの良い釣り人があつまる渓流でイワナやウグイが多く釣れることなどをキャスターが明るい声で説明している。

(イワナやウグイ……? なんかどっかで最近聞いたけど……なんだっけ?)

 スマホの向こうでは母がメロとテオの名前の由来を懇々と説明している。既にメロは耳にタコができるくらい聞かされた内容だし、四半世紀以上聞かされていると言うのに未だにメロには理解できない理由である。


「だからねメロちゃん。あなたたち二人には仲良くして欲しいのよ」

「それテオにも言ってる?」

「……テオくんは電話に出てくれないもの」

「テオには警察呼ぶって脅さないの?」

「脅すなんて人聞きの悪いこと言わないで。テオくんは男の子なんだからお仕事が忙しいの。あんまり邪魔しちゃいけないわ」

「わたしは邪魔してもいいの?」

「ひどいわメロちゃん。ママのこと邪魔だなんて」

 またメソメソグチグチ長くなりそうなのでメロはスマホをテーブルに起き、音量を一番小さくしてひっくり返した。


 テレビでは蛍と渓流の話からイワナやウグイと言った川魚の美味しい食べ方の説明に話題が移っている。

(うーん。イワナとウグイ……川魚の話とか誰かとしたかなあ)

 考えても考えても思い出せず、メロはもやもやしたままスマホが静かになるまでテレビを眺めていた。

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