day3 文鳥
その日の昼過ぎ。森永テオが顔を上げると、何かがいつもと違う気がした。
彼が働くいつもの職場だ。事務所には机がずらりと並び、パソコンとモニターが置いてある。それ以外は各自筆記用具やタンブラー、ボックスティッシュ、時にはぬいぐるみなんかが置いてあって……。
そこまで考えたところでテオは気がついた。
「鳥?」
向かいの席の同僚、松山千晴の席に置いてあるモニターの上に、先週まではなかった鳥のぬいぐるみが二つ乗せてあるのだ。
テオら二羽の鳥を眺める。片方は真っ白でもう一つは頭が黒で背中が灰色、ほっぺたは白だろうか。どちらもふくふくと丸いフォルムでさぞかし柔らかいのだろう。
(さわりたいなー)
よだれが出そうな気持ちで彼は丸っとした二羽の背中と尻尾を見つめた。
「ごめん、気になる?」
あまりに露骨に眺めていたからか、その席の主である松山千晴が気まずそうにテオに声をかけた。
「うん、めちゃくちゃかわいいね」
テオはうへへと鳥を見つめる。
「そう? キャラじゃないからどうかなって思ってたんだけど」
「キャラじゃない?」
気の引けたように言う千晴にテオは意味がわからず聞き返した。
「えと、ほら、私あんまりそういうかわいい系じゃないから」
「松山さんがかわいいかどうかと、ぬいぐるみがかわいいかどうかって関係ないっしょ」
テオはバッサリと言い切った。千晴はポカンと目を丸くする。
「ねえ、ちょっと触ってもいい?」
「え、うん。どうぞ」
白い方の鳥をそっと下ろして千晴はテオに渡す。
「ひゃー、ふわふわ! さいこう! んわーかわいい〜」
人目をはばからない可愛がり方に千晴はますます目を丸くする。そしてやがてクスリと微笑んだ。
「森永くん、ぬいぐるみ好きなの?」
「うん。俺ね、柔らかいものとかふわふわしたもの大好き」
「そっか。じゃあその子あげるよ」
「え、いいの? マジで? 返さないよ?」
「いいよ。それね、文鳥なんだけど名前はまだないから森永くんつけてあげて」
テオは目を輝かせて文鳥のぬいぐるみを撫で回す。
「んー、どうしよっかなー。じゃあハルコさんにしよ」
松山さん、下の名前チハルだもんね。そう言ってテオはニコニコと自分の机のティッシュボックスの上に文鳥のぬいぐるみのハルコさんを乗せる。
それを向かいで見ていた千晴の顔が赤いことにテオはまったく気づかずかなかった。
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