第5話

「あら、颯斗くんじゃない。久しぶりね」


え?

びっくりして咄嗟に声のした方に体を向ける


「あ、佐知子さちこさん!お久しぶりです」


この方は光の母親で、中学生の時以来会ってなかった

色々な意味で全然変わってないから、この方だけ時が止まってるんじゃないかってよく思ってしまう


「もしかして光に会いに来たのしら?」


「そうなんですよ。でも受付が分からなくて困ってたんです」


「あらそうだったのね、じゃあちょうど私も受付するところだったし一緒に行きましょうか」


ほんとに運が良かった!佐知子さんなら安心してついて行ける


「そうだったんですね!本当に助かります。一緒に行かせてください!」


「全然良いわよ〜。というか、そんなに畏まらなくてもいいのよ?」


「いえ、親しき仲にも礼儀ありと言いますし、少しぐらいは」


「うふふ、律儀な子ねぇ。貴方なら光を任せられるわ」


任せられるってこっちの都合で解釈していいのか?

「えっと…それはどういう意味でですかね?」


「ん?颯斗くんが思っている通りよ。やっと来たのね」


なぜ告白がバレてるの!?僕何も話してないのに!?


「そりゃ分かるわよ。小さい頃からあなたを見てるのよ?」


ちっちゃい頃から見てたら分かるようになるの!?


「あと、表情に出てるわ。これから人生の難題に挑みます って」


「え!?そんなに出てるんですか!?」

じゃあ今まで感情丸出しだったの?それはそれでちょっと恥ずかしいかも…


「交友のある子は分かるんじゃないかしら?」


え〜!みんな言ってくれても良かったんじゃないの!?

もしかしてババ抜きでよく負けるのってこれのせい!?


「…まぁ、頑張ってね。応援してるわよ……はい、これがネームプレートよ。首から下げてね」


「…ぇ!?もう終わったんですか!何もせずすみません」


「あら、別に大丈夫よ。それだけ驚いたって事でしょ?気にしないでね」


なんて心の広い人なんだ!

「本当にありがとうございます!」


「うふふ、喜ばれて悪い気はしないわね…じゃあ病室に行きましょうか」


正直病室の場所も知らなかったのでありがたい

南野家はみんな神なのかもしれない…

「はい!よろしくお願いします!」




―――病室前にて


「光の病室はここよ」


いよいよだ、もうすぐで僕の戦場だ


「すみません佐知子さん」


「ん?あぁ大丈夫よ?任せなさい☆」


なんか佐知子さんテンション上がってる?

しかも何を任せたの?


「は、はい。よろしくお願いします」


「じゃあ病室に入るわよ?」


こんなに緊張した日なんてないよぉ

胃が痛くなってきた

「分かりました!」



コンコン

「光、失礼するわね。颯斗くんも連れてきたわよ」


「し、失礼します」


「え!?一緒に来たの!?」


まぁたしかに、自分の母親がほかの子連れてきたら驚くよね


「えぇ、偶然受付のとこで会ったのよ…で、これが忘れ物ね」


「え、うん。ありがとう」


「じゃ、私はこれで。あとは若いお二人で〜」

パタン


え?帰るの早くない?

ちょっと流れが早すぎてついていけない


「…佐知子さん帰るの早くない?」


「…いつもはこんな感じじゃないんだけど、今日は違ったみたい……あ、そういえば、何の用事できたの?」


「あっそうだった、ちょっと光に言いたいことがありまして…」


「うん」


めっちゃ緊張する

言おうとしてた言葉も飛んじゃった

でも、今待たせる訳にもいかない

やる気を出せ、僕!


「あ、光のことが好きです!付き合ってください!」


い、言ってしまった

直球すぎて、自分の口も塞がらないよ

光の顔も見れない

…今更だけど、断られたらどうしよう

もう今までの関係には戻れない。ここで、僕たちの関係が大きく変わる


「……」


…沈黙が辛い

もしかして、僕には家族愛みたいなのを持っていただけかもしれない

じゃあこれよくないんじゃ…


「…ズビ…」


ん?なんで鼻すすってるような音が聞こえるんだ?


「あ、光?どうした…っ!?」


なんで泣いてるのぉ!?


「ち、違うの!…いや、違くないんだけど!そうじゃないの!」


「い、一旦落ち着こ?ね?」


―――数分後


「だ、大丈夫?」


「うん。もう大丈夫。告白は嬉しい、ありがと。

…でも、私といると迷惑しか掛けないよ?いつ体調が悪化するかも分からないし。

あと、勘でしかないけど、多分今回の検査で何か引っかかった

…だから、ごめん。付き合うことはできない」


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