第4話 思い合う結婚生活
廊下での思わぬ出会いから自室に戻ったエリーヌは、ふうと息を吐いて考えを巡らせていた。
(あああああーーーーーー!! どうしましょう、何か不快なことをしてしまっていたらどうしましょう……! 離婚でしょうか?! それとも……毒の実験台……?!)
良からぬことを思い巡らせて再び身体を震わせると、今度は落ち着きなく部屋をうろうろとする。
ベッドのところに行っては座らずにそのまま窓際へ、窓際から外国語で書かれた本がたくさんある本棚へ。
その次にまたベッドのほうへ向かって今度は座るも、落ち着かずにすぐに立ち上がって水を飲みに行く──
何往復かそれを繰り返して頭を忙しく回転させてみて、ようやく一つの考えにたどり着いた。
(よし、何かお詫びの品をお届けしましょう)
そう思い何か自分の得意なことを探してみる。
あ、と一つ思いついて手を喉に当てた後に息を吸って口を大きく開いてみた。
「────」
しかし、鳥のさえずりとわずかな風の音が響くばかりで出したいものが出せない。
「やっぱり、歌えない……」
他に何かお詫びになるもの、価値のあるものをアンリに届けたいと思うも、一向に出てこない。
そこでもう一度考えを改めてみる。
数分考えた後、エリーヌはひとまず邪魔にならない手紙を書いてみることにした──
よく招待状やお礼状を自分で書いていたエリーヌは、筆は早く文字に思いを込めるのは得意だった。
それでも自分の夫となった人に初めての手紙を書く、というのは緊張して筆が止まる。
ひとまず軽い自己紹介とこれからの挨拶を書いてじっと文面を見つめた。
(う~ん……)
なんとなくしっくりこなかったため、その手紙をくしゃっと丸めてゴミ箱に捨てた。
(やっぱり何かアンリ様のお好きなものを届けてもらうことにしましょう)
ロザリアには屋敷は好きに回っても良いと許可をもらっていたため、そのまま屋敷探索をすることにした──
エリーヌの部屋を出て左にある角を曲がった先に細い通路があり、そこの奥がアンリの部屋だと聞いている。
アンリの部屋の前まで行ってみるも、仕事の邪魔になるからと入るのはためらわれた。
そのすぐ横に大きな植物園のような空間があり、ガラス越しに中を眺めてみる。
(たくさん植物があるわね。それと見たことがない花がたくさん)
興味深く身を乗り出してみていると、その植物園の中にアンリの姿があるのが見えた。
(あ、アンリ様だわ)
彼は何かガラスの容器に液体を入れてそれを様々な方向から眺めている。
そしてそれを霧吹きのようなものに移し替えると、そのまま近くにある植物に吹きかける。
(植物にかけてるってことは毒……じゃないわよね?)
何かの実験なのか、それとも水や栄養なのか、エリーヌにはわからなかった。
すると、ふとアンリがこちらを見てエリーヌの姿を捉えた。
「──っ!!」
エリーヌは慌てて姿勢を正して頭を下げると、アンリはあたふたとして少し後に右手をあげる。
(よかった……少し笑ってらっしゃる。嫌われてはないのかしら)
胸をなでおろしたエリーヌはもう一度軽く会釈をしてその場を去った。
廊下を歩いている途中で向こうからロザリアが歩いて来るのが見えた。
「エリーヌ様、植物園に行かれたのですか?」
「いいえ、外から見せていただいただけです」
「アンリ様にお会いになりましたか?」
「目は合いました。嫌われてはいないようで安心しました」
ロザリアは優しい微笑みを見せて言う。
「アンリ様はエリーヌ様を嫌ってはいませんよ。少々旦那様は照れ屋なところがございまして」
「そうなのね、では何かお仕事の邪魔にならないようなものをお届けしようと思ったのだけど、迷惑じゃないですか?」
「ええ、お喜びになると思いますよ」
エリーヌは少し考えた後で、ロザリアに告げる。
「少し買い物がしたいのだけど、馬車を出してもらうことはできますか?」
「ええ、もちろん」
「それと、ロザリアも一緒に来てほしいのだけど、ダメかしら?」
「大丈夫ですよ。では、お出かけの準備をいたしましょうか」
「ええ!」
二人は揃って部屋に戻っていった──
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