第5話 思い合う結婚生活~SIDEアンリ~
自分の目の前に天使が降り立ったと思った──
アンリは心の中でそのように感じていた。
朝食の時間に遅れてしまうのはよくある事で、徹夜明けのぼうっとした頭のまま廊下を歩いていた。
それゆえに曲がり角の先から誰か出て来るとかもという危機管理が失われ、そのままぶつかってしまった。
「──っ!!」
ぶつかった衝撃から自分よりも小さくて華奢な人間であると気づき、咄嗟に相手が転ばないように腕を伸ばした。
身体を支えているその彼女はアンリの顔を見上げた。
(見たことない人だ……)
そんな風にアンリは思っていると、後ろからディルヴァールの声がする。
「アンリ様っ!」
「旦那様でしょうか?」
彼女はアンリに対して言った。
「この娘は誰だ?」
「今朝もお話したアンリ様の奥様、エリーヌ様でございます」
「俺は、結婚したのか?」
「「はい??」」
◇◆◇
自分自身の失態を妻に見られ、そして部下になじられたその後、アンリはいつものように植物園兼研究室にこもっていた。
だが、いつもと違って研究に集中できず、しなければならないことは山ほどあるのに考えるのは彼女のことだけ。
そう、先程会った妻・エリーヌのことである。
(いくつだろうか、若そうに見えたけど……)
アンリは先の月末に誕生日を迎え、26歳になっていた。
純粋そうで、そして綺麗な青い瞳をしている彼女は、性格もよさそうに思える。
机の上にあったピンクの花を取り上げて、そっと匂いを嗅ぐ。
(エリーヌは花は好きだろうか。贈れば喜んでくれるだろうか)
周りを見渡しながら彼女の好きそうな花を探してみる。
あまり大きな花弁のものは似合わないかもしれない、そう思って小ぶりの花を咲かせる珍しい花の前にいく。
「君はなかなか育たないね」
その花は一度もまだ花を咲かせたことがなく、何度か栄養を与えているが青々とした葉を伸ばすだけでつぼみもできない。
しかし、アンリの知識上これは花を咲かせるものなのだが、何がいけないのか……。
横にあった栄養剤を調合して、霧吹きでまたかけてやる。
「──っ!!」
その時、部屋の外に見える廊下のほうにエリーヌの姿があるのが見えた。
彼女のこちらを認識したようでお辞儀をしている。
(お辞儀をし返すのも仰々しいか。手をあげてみるか)
右手で挨拶をすると、彼女も気づいたようだった。
(可愛い……ちょこんとしているその様子も、仕草が可愛い。可愛い……)
あまりの一目惚れぶりに語彙力をなくしていることに気づかないアンリは、そのまま心の中で彼女に愛を囁き続ける。
少しして、彼女は会釈をして去って行った──
今度はきちんと挨拶をして、話をしたい。
(彼女のことをもっと知りたい)
アンリはその植物園から外の世界に出ようとしていた。
それにしても何度もアンリには思うことがあった。
『こんなに可愛い人と結婚していいのか?』
そんな風に感じていたアンリだった──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます