第21話 雑誌インタビュー

シャルドンエトワール本社・商談ルーム

茉白が待っていると、ドアが開く。

米良が開けたドアから、先に遙斗が入室する。

少し遅れて米良が入室する。

「こんにちは。」

「こんにちは、茉白さん。」

この日二人の顔を見て、茉白は緊張と同時に不思議と安心した気持ちになった。

「こんにちは。よろしくお願いします。」

ここのところ週2日、影沼と仕事をすることで茉白は気疲れしていたようだ。


「今日は、以前にお話ししたレイングッズのサンプルをお持ちしました。傘は大きいので代表的な柄を一つだけです。他の柄は必要があれば後日郵送の手配をします。」

茉白は持参したスーツケースを開けると、商談テーブルに傘やレインポンチョ、雨の日向けのバッグなどを広げた。

「前にもご説明した通り、雨の日は気持ちが沈んでしまう人も多いので大人も使いやすいスモーキーな色味で花柄を作りました。色はこちらの資料の通り、人気カラーをアンケートで調べて—」

茉白はいつものように説明する。

「うちもシーズンになったらレイングッズは売り場を拡大するから、カラーを選定して仕入れようと思う。過去の実績も悪く無いし、見た感じどれも悪くないから全カラー展開しても良さそうだけど—」

遙斗はサンプル全体を見渡した。

「前回の企画説明の時にも気になっていたけど、これだけのラインナップでなんで折り畳み傘が無い?作れないわけじゃないだろ?」

「あ…」

「うちではどちらかというと折り畳み傘の方が売れ筋だし、占有面積が少ない分展開がしやすいから、できれば同じシリーズで折り畳み傘を発売して欲しい。またOEMのような形を取ってもいいけど…」

本来なら願ってもいないシャルドンからの提案だ。

「えっと……」

茉白が珍しく迷ったように答えを出せずにいる。

「前に言ってたプリント生地の発注の問題?」

「いえ、生地の発注はまだ間に合いますし、発注してしまってから使用する商品ラインナップや使用する割合をある程度変えることもできるんですけど…」

「けど?」

「LOSKAは折り畳み傘が弱いっていうジンクスみたいなものがあるみたいで…社長や昔からいる社員が作りたがらないんです。」

「ジンクス?なんだそれ、くだらないな。」

遙斗が溜息混じりに言った。

「弱いというのは具体的に?」

米良が聞いた。

「昔は何度か折り畳み傘も発売したらしいんです。でも毎回売れ残って、最終的に在庫をディスカウントショップに安値で引き取ってもらうような事が続いたみたいで。傘となると金額が大きくてリスクも大きいので…」

「それは確かに及び腰になりますね。」

「いや…LOSKAのデザインで何度もそんな事になるか?当時はもっと奇抜な柄だった、とか?」

遙斗が不思議そうに聞いた。

「いえ、前に昔のカタログも見せてもらったんですけど、そんなことは無かったです。すごく小さくなる傘とかも載ってて便利そうだったんですけど…」

茉白も“言われてみれば”と、不思議そうな顔をした。

(よく考えたら確かに折り畳み傘だけが突出して売れないなんておかしい。もっとちゃんと理由を聞くべきだった。)

「とにかく、うちとしては折り畳み傘の製造を検討して欲しい。うちに ある程度の数量を納品できればリスクはそれなりに抑えられるんじゃないか?」

「そうですよね。…会社に戻ったら、昔の事をもう少しちゃんと調べて検討します。ありがとうございます。」

茉白はPCのメモに記入した。


「あの…」

茉白がバッグから雑誌を取り出した。20代向けの女性ファッション誌だった。

「あれ?その雑誌…」

表紙を見た米良が反応する。

茉白は雑誌の、付箋が貼られたページを開いて二人に見せた。

「ここにLOSKAの商品が載ってるんです。御社にも納めさせていただいたコスメポーチが、小さくですけど…」

茉白は雑誌を出しては見たものの、指差した写真が会社で見たときより小さいように感じて少し気恥ずかしそうに言った。

「へぇ、小さくてもメディアに出るのは宣伝になると思うよ。この雑誌のWEB版にも掲載されてる?」

遙斗が言った。

「はい。」

「この雑誌って、遙斗のインタビューも載ってる号じゃないですか?」

米良が言うと、茉白は頷いた。

「…覚えてないな。」

「遙斗は自分が載った雑誌とか興味ないからな…」

ピンときていない様子の遙斗に米良が呆れたように言った。

「茉白さんは、遙斗も載ってるから持って来てくれたんじゃないですか?」

米良はにっこり笑って茉白に言った。

「え!えっと……」

遙斗も茉白の方を見た。

(米良さんてこういうところ、鋭いっていうか目ざといっていうか…)

「………はい、同じ雑誌に載るってなんかちょっと…嬉しくて…雪村専務はまるごと1ページで、LOSKAはたったこれだけですけど…」

茉白は照れ臭そうに少し小さな声で言った。

「…そっか…」

遙斗は雑誌を手に取るとパラパラと捲った。

「ありがとう。」

遙斗に優しい笑顔で言われると、茉白の心臓がキュ…と音を立てる。

「最近この手の取材が多かったから覚えてないけど、なんとなく思い出してきた。」

「本当かよ。」

(雪村専務にとってはよくある雑誌の取材の一つ…かもしれないけど…)

茉白にとっては雲の上の遙斗と自分の会社の商品が同じメディアに掲載されたことが特別なことに感じられた。

「女性誌の取材も受けるんですね。経済誌だけかと思ってました。」

茉白は遙斗のページをすでに何度も何度も読み返していた。

「ファッション誌はターゲットの客層と合うから、企業イメージが落ちるようなものでない限りはできるだけ受けるようにしてる。」

「でも聞かれるのは“結婚観”、“好きな女性のタイプ”、“好きな女性のファッション・髪型”みたいなことばっかりですけどね。」

(…でもたしかにそこは気になる…)

「遙斗が面倒がるから、答えは私が当たり障りの無いようなものを考えていますが…」

米良が言った。

「え!!」

茉白が驚いた声を出した。

「何?」

「茉白さん、もしかしてこの内容を間に受けてました?」

米良が意地悪な笑顔で聞くと、茉白は首をぶんぶん横に振った。

「う、うちの会社の女性たちが真剣に見てたので…!」

茉白が必死に誤魔化すように言うのを見て米良は眉を下げて笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る