第11話 遙斗の招待
「あ、また。」
スマホを見ていた莉子がつぶやいた。
「どうしたの?」
茉白が聞いた。
「Twittyなんですけど、うちのアカウントが投稿するたびにクロさんっていう方がいいねとRTしてくれるんです。」
「それって珍しいことなの?フォロワーが700人もいたらたくさんハートが付きそうだけど…」
「茉白さん甘いですよ〜!プレゼント企画で集まったフォロワーさんはあくまでプレゼント目当てだから、LOSKAの普段の投稿に興味がある人は少ないんですよ。ライト層ですからね。」
莉子が説明する。
「え、そうなの?」
「ですです。だからまたプレゼント企画したり、あとはブランド力を上げて本当のファンを増やしていかないと。」
「へー奥が深いんだね〜SNSって…。」
茉白は莉子の知識に感心しっぱなしだ。
「だから毎回RTしてくれるクロさんみたいな人はありがたいんですよ。」
莉子がクロさんのRTの通知画面を茉白に見せた。
「あれ、このアイコン…たしかその人、フォロワー1桁の時からいるよ。」
たったの6人だったフォロワーの名前とアイコンはなんとなく覚えている。
「最近できたアカウントみたいですね。プロフィールは全然書かないタイプか…。」
莉子はクロさんのプロフィール画面に移動してつぶやいた。
「他のアカウントはあんまりフォローしてないみたいです。うちの社員の知り合いだったりして?もしかして茉白さんの知り合い?」
「えー?全然心当たりないなぁ…」
(クロ…黒?)
「えっっ!!」
莉子が今度は一際大きな驚きの声を上げた。
「今度はどうしたの?」
「見てください!レダさんがうちの投稿をRTしてくれてます!」
「………れださん?それってすごいの?」
興奮する莉子とは対照的に茉白はピンとこないという顔をしている。
「もー!何言ってるんですかー!フォロワー5万人超の雑貨マニアのインフルエンサーですよ〜!」
「へぇ」
「も〜〜〜!茉白さん絶対わかってないですよね!これでまたフォロワー増えますよ!ほら、通知がたくさん!」
莉子はよくわかっていない茉白に歯がゆそうな顔をする。
「莉子ちゃんが詳しすぎるんだよ…」
「あ!私そろそろ出ないと。」
スマホの時刻表示を見た莉子が言った。
「私今日はスワンさんの日なので…」
「直帰ね。了解。」
“スワンさん”というのはスワン用品店という、LOSKAの取引先の小さな雑貨店だ。おばあさんが一人で店番をしているような昔ながらの店だが、品揃えのセンスにはこだわりを感じられるオシャレな店だ。莉子が営業を担当する店で、月に一度訪問している。
「あそこのおばあちゃん、可愛いんですよね〜。うちの商品は“ハイカラ”なんだって。いまだにFAX注文か直接注文取りに行くかってのがアナログですけど、直接行って話してると超癒されます。」
莉子がニコニコして言った。
「うちの商品以外の品揃えも何気にセンス良くて、行くとついつい色々買っちゃうし〜。で、ついつい話し込んじゃって…」
「毎回直帰なんだよね。ちゃんと受注できてるから大丈夫だよ。行ってらっしゃい!」
(さて、私も仕事しなくちゃ)
今日は遙斗が予告していた通り、シャルドンのSNSアカウントでもLOSKAの商品が紹介された。おかげでフォロワーも少し増え、シャルドン以外の店舗からもすぐに問い合わせがあった。
エンドユーザーの“かわいい”や“絶対買う!”というコメントを見られたのも嬉しい。
(すごい拡散力…)
(お礼の電話…)
これまで茉白から遙斗に電話をかけたことはない。スマホを前になかなか電話をかけられずにいた。
(忙しい人だし…雲の上だし……でも…)
思い切って電話のボタンを押した。
呼び出し音が鳴るたびに緊張が高まる。
『はい』
電話の向こうの声に茉白の心臓がトクンと跳ねる。
「あ、えっと…LOSKAの真嶋 茉白です!」
『フルネームって…表示されてるよ。』
電話越しに、遙斗が笑ったのがわかる。
(はぁ…いきなり失敗した…)
「今、お時間大丈夫ですか?」
『少しなら。』
「あの—」
『Twitty、すごいな。2週間でフォロワー100倍になってる。』
「あ、見てくださったんですね。はい、後輩に色々教えてもらいながら頑張りました。あの、今日の御社のアカウントの投稿も反響があって…そのお礼が言いたくて…ありがとうございます!」
『うちの方でも店舗に問い合わせが来てるみたいだよ。』
「本当ですか?御社の担当さんが素敵な写真を撮ってくださったからですね。」
茉白は明るい声で言った。
『真嶋さん、再来週の金曜の夜空いてる?』
「え?えっと……はい。」
『OEMとSNSを頑張ってくれたお礼に、パーティーに招待したいんだけど。』
「パーティー…ですか?」
慣れない響きに、茉白はまた少し緊張する。
『立食形式でそんなに堅苦しいものじゃないよ。
遙斗はLOSKAの新規取引先探しや、同業者との交流の場を提供してくれるつもりのようだ。
「あ、えっと…はい、是非。…ありがとうございます。」
『俺も米良もいるから緊張しなくていいって。』
茉白の声色から、すでに緊張していることを察した遙斗が言った。
(雪村専務がいるから余計に緊張するんだけど…。服どうしよう…)
電話を切ると、茉白は手帳の再来週金曜日の枠を見ながらあれこれと考えていた。
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