第10話 莉子のレクチャー

それから何度かLOSKA社内や遙斗たち、そしてハンカチの縫製工場と打ち合わせを重ね、ハンカチも無事に形になった。


シャルドンエトワール・物流倉庫

シャルドン本社のほど近くに、シャルドンの商品在庫を保管する大きな倉庫がある。この日、茉白は朝からポーチとハンカチの納品の立ち会いにここを訪れていた。

「茉白さんがわざわざ来てくれたんですね。」

「米良さん!こんにちは。」

商品の段ボールの数を数える茉白に米良が話しかけた。

「数も多いし、OEMのハンカチもあるので自分で見届けておきたくて。米良さんこそわざわざ見に来てくれたんですか?」

茉白が笑って言った。

「遙斗も会えれば良かったんですけど、あいにく社長と打ち合わせ中で。」

「そんな、お忙しいのに弊社なんかに…大丈夫です!」

(社長さん…雪村専務のお父さん。雲の上のさらに上の人!)

茉白は恐縮して言った。

「ジッパーバッグも作れたら良かったんですけど、やっぱりロットが大きかったですね。」

「そうですね、茉白さんの言う通りでした。さすがですね。ところで…」

「はい?」

「SNSの方の調子はどうですか?」

米良の言葉に茉白はギクッとする。

「……私、ああいうの向いてないみたいで…」


その日の午後

———プルル…

茉白のスマホには【雪村 遙斗】と表示されている。遙斗からは何度か仕事の要件のみのあっさりとした電話が来たことがあるが、茉白はその度に緊張していた。

「はい…」

『雪村ですが。』

「は、はい…お世話になっております」

『うちの倉庫に納品に来てたって、米良に聞いた。わざわざどうもありがとう。』

「い、いえ、そんなお礼を言われるようなことでは…」

茉白はまた恐縮する。

『ところで真嶋さん』

「はい?」

『SNS舐めてんの?』

遙斗の口調が少し強くなる。

「え」

『あれから2ヶ月経ってるのにフォロワー5人てどういうことだよ。』

遙斗が言っているのは茉白がSNSを頑張ると言った朝7時の商談の日のことだ。

「う…米良さんにも言いましたけど、私こういうの向いてないみたいで…」

茉白は目の前のPCで自社のTwittyを開いた。

「あ!5人じゃないですよ、6人です!」

『5人も6人も変わらないだろ…。』

遙斗が溜息混じりの呆れた声で言う。

「全然違いますよ、16%増です!」

『………』

「…すみません。」

『2週間後』

「え?」

『2週間後にうちのアカウントで、今日入荷したLOSKAの商品を紹介する予定になってる。』

「わ、ありがとうございます!」

『タグ付けもするから、そのリンク先がフォロワー1桁だとうちが恥ずかしい。』

「え…」

『だから2週間でマシなアカウントにしろ。』

「え!無理です…!」

茉白は焦った声で言った。

『ちょっと見ただけでも改善できそうな点がいくつもあった。写真が暗い、文章が堅い、ハッシュタグの使い方がヘタ—』

「…だからセンスが無いんです!」

茉白は遙斗がダメな点を列挙するのに堪えられず被せるように言った。

『自分でやろうとするからだろ?雑貨メーカーなんだから、そういうのが得意な社員もいるだろ。自分一人で抱え込まない、使えるものはなんでも使う、真嶋さんの課題だな。』

「………」

『この後うちのSNS担当から、御社のデザイナーにこの件でロゴの手配依頼がいくから。そこに付いてる画像も参考にするといい。じゃ。』

それだけ言って、遙斗は電話を切った。


「え!うちってSNSアカウントあったんですか!?」

莉子が驚いたように言った。

「一応ね。TwittyとInstagraph…」

恥ずかしがる茉白を尻目に、莉子は素早くスマホを操作してLOSKAのアカウントを開いた。

「あー…」

莉子は残念なものを見てしまったような顔をした。

「莉子ちゃん、その反応…」

「あ、ごめんなさ〜い!」

莉子は「てへ」と笑った。

「良かったら私が担当しましょうか?」

「うん…そうしてくれたら嬉しいんだけど、私もちょっと勉強したいなって…思ってるの…」

「了解です!じゃあ私の営業スマホと茉白さんのスマホ、両方で使えるようにしましょう。ビシビシ指導しますよ!」

莉子は笑顔で言った。

「2週間しかないからとにかく毎日何回も投稿しましょう。」

「う、うん。」

「申し訳ないですけど、古い投稿は一旦削除してオシャレ投稿で埋め尽くしたほうが良い気がします。」

「う、うん、それで全然構わないよ…ところで莉子ちゃん、タグ付けって何?」

「……茉白さん、2週間頑張りましょうね…!」


「まず茉白さんはスマホに写真加工用のアプリを入れて—」

「写真はとにかく明るさが命です。あとは背景にかわいい柄の紙とか布をひいて—」

「佐藤さんにかわいい画像にしてもらうのもアリで—」

「うちの場合は商品紹介メインなので、社員のランチ投稿とかは誰も興味ないんで、やめましょうね。でもオシャレなカフェでポーチの写真投稿とかはアリです—」

「文章はテンション高めに顔文字とかも使ったらかわいいですけど、茉白さんてそういうの絶対苦手だから…例えば花柄の傘の紹介だったら、文章なしでお花の絵文字に“#傘” “#花柄大好き”とかだけで全然オッケーです— 」

莉子のレクチャーはどんどん進んでいく。茉白はただただ感心してついていくのがやっとだ。


「すごい莉子ちゃん!3日でフォロワー50人になったよ!コメント書いてくれる人もいる〜」

茉白は日に日にフォロワーが増えることに嬉しさを隠せない。

「まだまだですよ〜!」

「え」

「雑貨好きなインフルエンサーはどんどんフォローしてください。あとはうちの商品を使ってくれてる人がいたら積極的に“いいね”してください。私も移動時間とかにチェックしますね!」

「う、うん!」

「あとは、フォロワー100人くらいになったらプレゼント企画でライト層のフォロワーを増やしましょ!」

「莉子先生…」


莉子のおかげで、2週間が経つ頃にはフォロワーが700人を超えていた。

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