第9話 誘拐

 何分ぐらい意識を失っていたのだろうか。

僕は何もない部屋に閉じ込められていた。

手には手錠がかけられており、足も鎖で固定されている。

逃げ出そうにも逃げ出せない。

詰んだ……これから一体どうなるのだろう。

そんなことを考えていると、部屋のドアが開き、神名が入ってきた。


「ふふっ、随分と絶望してますね。」


そう呟きながら神名はコツコツと足音を立ててこちらに近づいてくる。


「来るな!」


僕はそう叫ぶが効果はない。


「惨めですね〜先ほどまでは随分と威勢がよかったのに……」


やがて、神名が僕の間合いに入ると神名はポケットからカッターを出した。


「おい!それで何をするんだ?出来れば鎖をぶった切ってくれたら嬉しいな……」


「まさか、そんな事するわけないじゃないですか。これは、罪深い貴方を切り裂く為に持ってきたんです。」


不味い……神名は僕をカッターで切り裂くつもりだ。

流石に殺すまではしないと思うが今、出血すると結構ヤバい。なんとかして打開策を見つけなくては。

幸いにも神名に僕が能力者だということはまだバレていない。

こうなったら、危険かもしれないがあれをするしかない……


「僕を切るのか?いいぜ。かかってこいよ。全部避けてやるよ。」


「避けれますか?これを貴方に!」


やはり、神名は僕の後ろ側に能力を使用して移動してきた。

僕はギリギリそれを躱す。


「おいおい。結構本気じゃないか。」


「なっ!いや、たまたま躱せただけですよね。今度は確実に!」


「攻撃が単調だ。それがお前の敗因だな。」


僕は後ろ側に移動してきた神名にパンチをお見舞いしていた。

しかもただのパンチじゃない。

能力を込めたパンチだ。


「これでお前は満足に能力を使えない。なんの能力かは知らないが特訓すれば確実に強くなってたな。」


「貴方も能力者だったんですか……」


「おっと!あまり動かないほうがいいぜ。結構強く殴ったからな。」


「はぁ〜私の負けですか……私が“中途半端”な強さだったがために……」


「いや、お前の根性だけは“中途半端”じゃなかった。」


「ふふっ、ありがとうございます……ちなみに私の名前は神名香菜で能力は“瞬間移動”する能力です。」


「瞬間移動?今瞬間移動って言ったのか?!」


「はい。言いましたけどなにか?」


瞬間移動はもう1人の僕の能力のはずだ。

そして能力というものは人それぞれだ。

世界に、同じ能力者は存在しない。

つまり、つまり、つまり、

もう1人の僕は……嘘をついている?

それに気付いた瞬間、僕は走り出した。

気が動転していた。

あいつが嘘をついているかも知れないという事を信じたくなかった。

ひたすらに、ただひたすらに地を蹴り、走る。

町で誰かにぶつかる。

だがそんなの知ったこっちゃない。

そして、遂に家に着いた。

急いでリビングに入り涼風杜庵に問いかける。


「お前、嘘をついてるな?」









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