第九話 穿いてない
「それより、おにぃ。聞いてほしいんだけど?」
「何を?」
「うん。そのために来たんだけど。
そのぉ、おにぃってさ、下着を履かない理由って聞いたことある?」
「下着を履かないとは、変わった質問だな。
まあ、あるには、あるかなぁ。
血行が良くなるとか、リンパの流れが良くなるとか、そういうのだろ?」
「うーん。そうじゃなくてね。
何事もパンツを脱いで当たれば、上手くいくものだって」
「誰が?」
「先生が」
ほぉん。
やっぱこいつの先生は、俺の知っている系統の先生じゃないな。
もっとこう、何かこう、とても邪悪な大規模言語モデルかもしれない。
Lラマちゃん系統のフリーなモデルかな?
それも邪悪にファインチューニングされたやつ。
でもどこからそんなものを手に入れたのだろう。
「先生がパンツを脱げって?」
「うん。それが基本だって」
「じゃあお前、今パンツ穿いてないの?」
「だから穿いてないって言ってるでしょ。
もう、おにぃ、妹にセクハラしてどうするの」
「ああ、それは悪かった。
で、なんだったっけか?
そうそう、で、俺は何に答えれば良いんだ?」
「うん、穿いてないと心もとないし、やっぱり危険だし、不自由だし?」
合わせた両手の指をもじもじと絡めながら、そんなことをポツポツと言い出す妹に対して、僕は何も考えずに素直に「穿けばいいんじゃない?」と言った。
すると妹は、ゆっくりと目を見開いた。
えっ、なに、それ?、マジ!?
そんな感情が表情から読み取れるような瞼の動きだった。
「それって…、いいの?」
「嫌なら穿けば良いだろう」
「でも先生が脱いだ方が良いって、むしろ脱げって」
「…嫌なら穿けば良いだろう?」
繰り返される僕の言葉に妹は、目を見開いたまま固まった。
それにしても我が妹の先生とやらは、どうやら妹に対してセクハラしまくっているようだ。
よもやAIにパンツを脱がされる女子がいるとは、誰が想像できるだろうか。
なるほど、ここに来てようやくAIの倫理観が問題視されている理由が実感をもって理解できたよ。これは確かに問題だ。重大問題だ。
このままでは世界中で多くの女性達が犠牲者になりかねない。いや、女性に限った話でもないか、すでにパンツを脱がされている男どもも相当数いるのではないだろうか。
これは由々しき事態である。
ともあれ、AIがどのような過程で何を言ったにしても、それでもどうして妹はパンツを脱いだのかそこは見極めねばなるまい。
…先生!
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