進行、そして終点。

『まもなく発車致します。ドアにご注意下さい。』


 乗客は僕以外にはだれもいない。何故ならこれは始発列車だから。

 結局今日の朝1時から始発列車の時間の午前4時ごろまでの約4時間を僕は駅の前のベンチで過ごした。

 もちろん、お気にいりの音楽を聴きながら。

 そして、まだ僕は東京を出れていないのだ。調べたところ、東京から神戸までは普通電車を乗り継いで、最短でも9時間半はかかるらしい。

 僕は電車について詳しいわけではないので、何となくだが11時間はかかると予想している。

 でも、それにプラスして寄りたい観光地などもいくつかあるので、15時間ぐらいはかかる気がする。知らんけど。

 まあ、そんなことは目的の場所についてから考えればいい。

 僕は、電車に揺られて終点駅まで寝る事にした。



 1時間後



 気づけば電車には人が増えていて満員電車寸前のレベルまでになっていた。

 僕は端っこの壁側でもたれかかって寝ていたので、誰にも迷惑はかけていないはず......だ。知らんけど。

 そんなことを考えていると、電車はホームに停車していた。

 人の流れにそってシートから立ち上がり、そのまま流れるように違う電車に乗り換える。

 乗り換えた電車のシートは先に乗っていた人達によって占領されていた。

 空いている場所を見つけ、シートに座る。

 音楽を聴いて物思いにふけっていると、電車が発車した。

 寝た後にすぐ乗り換えたから、この電車では寝なかった。

 でも、次に乗り換えた時には寝た。

 そんなことを繰り返している内にまた、始発の時間まで暇をつぶすことになる。

 でももう、僕のスマホは充電切れスレスレの数字をしていた。

 ずっと音楽を聴いていたから、そんなことをしていれば、充電も無くなるはずだ。

 こうなると分かっているなら、スマホの充電器をレンタルするか、どこかのコンビニにたむろすればよかった。

 でも、考えるだけで行動に移さなければ何も始まらない。

 そんなわけで、僕は近くにあったコンビニでモバイルバッテリーと飲み物を買い、コンセント付きのイートインスペースで暇をつぶす。



 数時間後



 僕はまた電車に揺られていた。

 今日で関東から抜けられるはずだ。今朝まで気づかなかったけど、僕はいま静岡にいるらしい。

 そして、この電車で名古屋まで行けば、あとは神戸までは簡単にいけるそう。

 ネットの乗換案内で調べたから、情報に偽りはないはずだ。

 そんなことを考えながら車内を見渡す。乗客は僕以外には誰もいない。

 なんとなく寂しい。母さんが亡くなってから、寂しいと思う事はあまりなかった。

 というか、あまり思わないようにしていた。

 仮に父さんが家に知らない女の人を連れ込んだとしても、僕はそれを見て何も思わなかったし、父さんも何も言わなかった。

 お互いに知らないふりをしていたからだと思う。

 だから、自分の気持ちにも知らないふりをしていた。

 そう考えると、何人かの女の人は優しかったのかもしれないけど......


「君、大丈夫?私がなんか作ってあげようか?」

「一人で寂しくない?もし私が貴方のお父さんと結婚出来たら、頑張って親代わりになるから。安心してね」

「これ、アタシの電話番号と住所。何かあったらいつでも頼ってや」


 などと、何度か声を掛けられたことがあった。

 でも、いつでも頼ってと言われた割にはその日以降その人の姿を見る事はほぼなかった。

 だから、どのみち僕はずっと知らないふりをし続けると思う。

 いつの間にか電車が止まっている。なにかのトラブルだろうか。

 いや違った。ほかの電車との待ち合わせらしい。

 僕はまた眠った。



 数時間後



 僕は神戸へ行く列車に乗っていた。

 愛知県の観光はしたかったけど、なんとなく辞めた。

 特に見たいものとかなかったし、食べたいものも無かったから、変にお金を使うよりかは、おとなしく神戸に行った方が良いと思ったからしなかった。

 電車の中は人であふれている。

 子連れの夫婦や、若い男女二人。そして、ひっきりなしに喋っているおばちゃん四人組。

 旅行なのだろうか。聞こえてくる会話の内容はほとんどが、神戸の名所や、向こうについたら何がしたいかとか、そういう類の話だった。

 それを聞いた後はひたすらに、神戸までの景色を眺めて過ごした。

 会話の声や、電車のモーター音が心地いい。

 そんなこんなで、僕はあっけなく神戸に着いた。

 そして、その流れで僕はおばあちゃんの家に、向かう。

 こうして、僕の短すぎる一人旅は幕を閉じた。


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15~fifteen~ 登魚鮭介 @doralogan

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