15~fifteen~
登魚鮭介
旅路
「和真、15歳の誕生日おめでとう!」
母さんからのビデオメッセージはこれが最後だった。なぜなら、僕の15の誕生日の今日に、母さんは病院で亡くなってしまったから。
父さんは外に愛人がいるから家にはいない。
それでも流石にお葬式はお父さんが主催してくれた。
僕は、お葬式の間、形見の母さんの手編みのマフラーをずっと握りしめていた。
「いいか。よく聞け和真。お前は俺にとって足手まといでしかない。だから、自分の荷物とお前の銀行通帳を持って好きな所へ行け。おじいちゃんの所でも、母方のおばあちゃんの家でもいい。とにかく俺の前から失せろ」
「分かったよ。でも、中学を卒業するまで待ってくれないかな。どうせ、あと三日で卒業式なんだからさ。一応就職先も決まっているんだし」
「ああ。あと三日ならこの家にいて構わないぞ。だが、それ以降はお前と俺は全くもっての赤の他人だからな」
そして、僕と父さんは口を利かなかった。別に喋っても良かったけど、喋りたくなかったから喋りたかった。
そして、あっという間に僕は中学校の卒業式がやってきたと思ったらあっという間に終わった。
別に友達もいないし、大した思い入れも無かったから特に何も思わなかったから、僕は全ての工程が終了した後真っ先に学校の門をくぐった。
そして、僕はそのまま家に帰って、15年間住んだ高級マンションの最上階に別れを告げ、リュックサック一つで旅に出た。
でも、旅と言っても就職先とおばあちゃんの家がある神戸まで行くだけなので、そこまで旅らしい旅でもないが、僕にとっては十分な旅だ。
電車に乗らない事には何もできないので、取り敢えず僕は歩いて東京駅まで向かう事にした。
イヤホンを耳につけてお気に入りの音楽を聴きながら。
21時
歩いて東京駅まで向かおうとしたのは間違っていたのかもしれない。
16時ごろには家をでたはずなのにもう5時間以上歩いている。
モバイルバッテリーを持ってきておいて良かった。
「ねえ君。ちょっといいかな」
「え?」
声を掛けられた方を見ると、相手は警察官だった。
何でこんな時に僕は職務質問を受けなければならないのだろうか。
「塾帰りかい?」
「いえ違いますけど。何か問題あります?」
「うーん。親御さんはどこにいるのかな?」
「いませんけど。先日亡くなりました。ていうか、僕は今から祖母の家に行くだけなので何も怪しくないと思うんですけど」
「そうだね。君が親御さんといてくれたら何も怪しくないんだけどね。一人でこの時間にこの場所をイヤホンを付けて歩いていたら怪しまれてもおかしくはないかな」
「はあ。そうですか。そろそろ良いですかね?それとも近頃何かあったんですか?ちなみにこれが身分証明書のマイナンバーカードです。一応義務教育は終わっているので。本当に神戸の祖母の家に行くだけなので」
「そう?なら、気を付けていくんだよ。変な人に絡まれても相手にしないこと。悪かったね」
「はい。じゃあこれで失礼します」
何が何だかよく分からなかったけれど、取り敢えずは何も言われなかったのでおれでいいのではなかろうか。
僕は気を取り直して再び歩き始めた。
そして更に1時間後。やっと僕は東京駅に着いた。
「結構かかったな......。足痛い」
電子マネーで改札を通り、ホームで電車が来るのをベンチに座って待つ。
お気に入りの音楽をずっと聴きながら。
そして、僕はこれからどうしようかとか、明日の朝はどこらへんまで行こうかとか、そんなどうでもいいような事をずっと考えていた。
やがて、電車が音を立ててホームに滑り込む。
到着した電車に僕も滑り込むように乗り込む。
夜も遅く、電車内はかなり空いていた。難なく席に座ることが出来たので、僕は思わずほっと息をつく。
乗っているのは疲れ果てたサラリーマンと大学生ぐらいのカップルだけだ。
東京の電車にしては本当に少なすぎる気がしたが、所詮は赤の他人なので特に気にしなかった。
『まもなく発車致します』
アナウンスと共に電車が走り出した。
体に電車特有の心地良いリズムが直に伝わってくる。
母さんが入院してから、ろくに電車に乗っていなかったので異様に久しぶりに感じた。
そのまま電車に乗り、乗り換えを二回ほど重ねた後、終点まで何もすることがない電車の中で僕は疲労の限界と音楽につられて終点駅までねてしまった。
15分後
『まもなく終点、終点です。本日も当列車にご乗車頂き誠にありがとうございました。お忘れ物の無いようにご注意下さい』
僕はそのアナウンスで意識が覚醒した。
電車を降りて時間を確認すると午前1時前。
中学校を卒業したばかりのヤツに泊めてくれるホテルはあるのだろうか。
もしくはネットカフェ。
無ければ僕は今日、公園で野宿をすることになる。
でも、よく考えれば始発の電車の時間まで駅の前で適当に時間を潰せば、どこかに泊まらなくていい。
「ここでお金は使いたくないな......。どうせ始発の電車が来るまで4,5時間でしょ。駅の前のベンチで適当に暇潰せばいいや」
そうして僕にとっての短い旅一日目は幕を閉じた。
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