第15話 蜃

 エルは目を見開いた。

 先刻出ていったケイが半死半生の体で彼女に担がれて戻ってきたことに。てっきり死ぬために森へ向かったのかと思っていたのだが――確かに瀕死の重体だった。放っておけば命尽きるだろうが、見殺しにするのも気が引ける。彼女だってポーションをぶっかけているのだから。


 だから、エルはケイに魔力を流してやった。

 ――これで二度目だ、もう一生助けてやらん。

 と、初めて見かけたときを思い出しながら。


 彼女の話を聞き、彼が目覚めたら狩猟にでも行ってこようかとエルは思う。ふたりが一匹ずつなんとかっていう魔獣を討伐したのに、自分だけ何もしないのはあり得ないから。

 ひとりは瀕死になってまで仕事したというのだから、自分も何かしら狩ってこなければ信頼に関わる。それが信頼というものではないか。


 そんなエルの思考は彼の経験の無さと性格よるものだ。

 彼もノルンと同じくパーティーを組んだことがない。もっといえば友人がいない。

 そして、完璧主義というのだろうか、欠点の一つでもあれば敵に敗北するという剣士のサガ。それは、戦闘以外でも僅かに表れてしまうのだろう。


 だから、パーティーから解雇されるという懸念が彼の中でほんの僅かでもあってはいけないのだ。もっといえば、そうでなければ気が済まないといった具合。


 そんなままならない気持ちで外へとびだしたら、ふたり釣れた。

 ひとりは昼間から村長宅を監視していた少女。もうひとりは森付近から付けてきた魔物。

 ――さあ、どちらを捌こうか。

 そんな気軽さで視線を向けたら少女の方は逃げてしまった。

 もう一方の魔物はケモノになって逃げてしまった。


 玉響の刹那に二人から振られてしまい、僅かに物寂しさを感じつつ、エルはデカい方をつけてみることにした。やられたのならやり返すといった正当性を掲げつつ。


 少女の方はよしておいてやろう、弱い者いじめは可哀想だから。


 森の中、魔物を切りつけながら追い立てていたら、思ったより獲物の足が速いことに気づいた。走るというより、木の幹を蹴り樹から樹へと渡っていくような感じ。


 エルは一度に大量の魔力を使いたくなかったため、魔獣に倣ってその移動法を敢行してみる。


 樹木の幹は太いため蹴りやすいが、枝を蹴り抜いてしまい失敗。

 次は軽くやったが、枝が自重に耐えられなかったようだ。根元ごと折れてしまった。


 どうすればいいのか、という問。

 いつだって感覚的に捉えれば良いのだと回答し、彼は迷わずリトライする。


 三度目の挑戦でエルは完全に森を支配した。


 適切な力を足元へ加えつつ、次の足場を感覚的に捉え、次へ次へとエルは進んでいく。とんとんと森を利用して逃げていく魔物を見据えつつ。


 ――その速さは際限なく加速していく。


 魔物との距離が離れたが、問題など微塵も発生しない。エルは魔力をある程度感じることができるので、暗闇の中でも迷わずに敵へ向うことができるのだ。彼の魔力感知は異常なほどに鋭く、目を瞑っていても空気中の魔素を頼りに空間を把握できるというレベルにまで極まっている。


 つまり、複雑化された森林はエルにとって都合がよい狩場なのだ。

 もっとも、相手の魔物だって自然に生きているのだから不利なんてことはない筈だ。

 ただ、相手が悪かったとしか――。


「いいな、この移動法。オマエもそう思うだろう?」


 ルウは瞠目する。あれだけの距離を離した筈なのに。そんな思考も敵を見た瞬間、恐怖の一色に染まる。ルウは樹の幹から別れた太い枝を足場にして空中を走っている、というのが真実だ。それはパルクールのように慣れることができたならば容易にできる技法。

 しかし、エルは直立する幹を蹴って左右に伝っていく。そして、枝の下部から蹴り上げて身を落とし急降下する。それは生き物の動きではない。縦横無尽に飛ぶ姿は速過ぎて正確に捉えることもできない。


 身体能力だけでルウを圧倒しているという事実に恐慌せざるを得ない。


 彼我の実力差は速やかに取り返しのつかない次第にまで遠退いていく。


「――なっ、何でそんな動きができるんだぁぁあああ‼」


 樹から樹へと飛び移っていく移動法は見た目よりも難しくないものだ。足場の選択さえ慣れることができたなら、獣人の子どもでさえ習得できる。

 しかし、アレは人間の身体能力ではどう頑張っても不可能である。どれだけ努力しても、どれだけの才能があったとしても、人間の身体はそういう体で造られていないのだから。


 それにも拘らず、少なくともルウより五倍の速さで上下左右、立体的に飛び回るのは確かに人間の剣士だ。


 さかしまになったエルが嗤い、パチリと斬撃を飛ばす。

 それを間一髪で避ける――が、躱しきれずに肉を刻まれる。

 斬撃は大木の数本を切断、音を立てて倒木する。


 ――先の攻撃は本気ではなかったのか。では、なぜ今まで手加減などしていたのか。決まっている、愉しんでいるのだ。敵の手札を消費し尽くして愉悦に浸る。それは自分だってよくやる手法だから。


 そんなルウの考察は正確ではない。実際、彼は魔物を追い立てることよりも、魔物を切り殺す方を好んでいる。しかし、エルはルウの逃げる先が気になるのだ。左右から揺さぶっても直線的に最速でどこかに向かっている意志を感じ取れたから。


 脱兎の如く逃走するならば左右へ隠れながら逃げるべきだ。身を隠すための障害は幾らでも直立しているのだから。


 しかし、エルも飽きてきた。敵の目的地に行ったところでどうというのだ。気にはなるが、この魔物を土産にすれば満足できる。手頃なモンスターを討伐するという当初の目的は達するのだ。


 もう終わらせようか、というより、このまま刻んでいけばじきに嫌でも終わる。


 ……さて、どうしたものか。


 パチリとフンガースナップの要領で斬撃を飛ばす。


 そんなエルの穏やかな葛藤など知る由もなく、人身御供にされつつあるルウは血だらけにされ続けた。漆黒の体毛は無慈悲にも、躱しきれない速度で致命傷にならないように調節された斬撃を防ぐことができない。


 ルウは現状、〈魔力障壁〉という自身の防御力を増加させる魔法を発動している。これは、魔法やスキルによる効果を無効または軽減することができる万能魔法だ。ついでに物理攻撃も軽減できるという優れもの。


 しかし、障壁には障壁で無効化される。だからルウは強力な魔法か打撃だけを警戒していれば良かったのだが。


「ぐぃいいっ!」


 敵の斬撃は確かに障壁を貫通してくる。

 しかし、必ずではない。

 初めは三度に一つは貫通できずに無効化できていた。

 しかし、時間と共に命中率は九割九分という大台に乗った。


 そして、威力も増すばかり。


 ――やばいやばいやばいやばい。


 本気の斬撃であれば一撃で死ぬ。次の斬撃で死ぬのか、はたまたその次か。

 そんな瀬戸際で思考が安定するわけがない。制御不可能な回路が逼迫し、熱を帯びて着火するように、暴走思考で生にしがみつくことしか許されない。


 が、途端に斬撃が止む。


 それがなぜなのかルウには分からず、ほうほうの体で足を動かし続けることしかできない。


 ――これも遊んでいるのか?


 それに気づいたとき、ルウは死に物狂いで前へ前へと森をかき分けて前進した。



       ◇



 ノルンは逃げるウェアウルフを追っていた。


 一定の距離を取りつつ、樹から樹へと飛翔しながら〈ファイアーボール〉を的当ての要領で放つ。


「火よ――――」


 燃え盛る炎の塊はケモノの背中を燃やしつつ、森の湿気に掻き消される。


 林中での移動は獣人である彼女にとっても得意分野である。

 加えて、敵は非常に弱っており、あの傷ならば失血で力尽きてもおかしくはないとノルンが思うほど、身体の至る所に裂傷が目立つ。


 しかし、慎重に越したことはない。瀕死の獣ほど恐ろしいモノはないのだから。

 すべからず冒険者には油断などあってはならない。先程ケイがよそ見していたが、ノルンに言わせれば言語道断だ。戦闘中に敵から目を離すなど死活問題だから。


 次会ったら説教だと考えていた折、森に霧が立ち込めていることに気づき、彼女の足は速まる。


 真っ白で粘性が高そうな霧はみるみるうちにその色を増していく。

 霧中での追跡は危険なためここで殺しきろう、そう思考した刹那。ノルンの視界は白一色に染まった。


 まるで何も見えないという深い色に彼女は当惑する。霧というより煙のように境界が明確化されているからだ。これはただの霧ではなさそうだという予感を得て、魔物の追走を断念した。


 五里霧中とはこのことだ。自分の足場しか認知できないほどの濃霧。


 してやられた、と眉をひそめながらノルンは来た道を引き返す。今度は地上に降り立ち、手探りで歩きながら。


 一分も経たないうちに視界が晴れていき、空中へと復帰し彼女は緑を走り抜けていく。

 が、いつまで経っても先が見えない密林に焦燥感を抱く。


 来た道を辿ったつもりだったが、完全に迷ってしまった。

 ノルンはそんなワケはないと樹を伝っていく。

 獣人は自然に生きる種族。故に、自分たちの住処で迷うことなどあってはならない。


 しかし、やはりというべきか、彼女の疑惑は確信へと確定した。


「――――蜃気楼か」


 西の森に立ち入れば蜃気楼に惑わされる、と村長に再三の注意を払われたことを想起させる。つまり、この状況は何者かに惑わされている。もっといえば掌握空間の中であるということ。


 こんなことだったら魔力を使わなければよかったと臍を噛む。


 そんな彼女の視線に、ひとつの怪異が――。


 それは、牛の頭に体は人身の姿という奇怪な威容。筋骨隆々とした体躯はデッドグリズリーなんかとは比較にならない力強さで、成人男性の二倍のデカさで大地を踏みしめている。

 そして、特筆すべきは洗練された肉体だ。もし、殴られたならば、骨ごと粉砕できるという荒々しく物々しい四肢。角は牛の特徴を残しており、恐怖を掻き立てる様相はまさに鬼だ。


 加えて、二叉になった巨大な槍を片手に携えている。

 鋭く尖った槍先は途中から外側に向かって伸びており、なんて禍々しいのだろう。刺股の如く挟まれたら抜け出すのは至難そうだ。


 さしものノルンでもその存在は初見だった。

 ミノタウロスに特徴は似ているが、もっと宗教的な容姿をしている。巨大な数珠を首に巻き、粗布が下半身を覆う。あんな怪物が文化的な生活をしているなんて想像に絶すると、ノルンは息を殺しその場を離脱するべく振り向く。


 ――――それは、刹那的に起こった。


 鬼の十文字槍が瞬く。

 大樹は風穴を開けられ、破裂音という悲鳴を森に轟かせる。


 ノルンの反射は生物が為せる最大の回避行動だった。

 躱しきれなければ頭を吹き飛ばされていたという事実に戦慄しつつ、ノルンは高速で森を飛翔する。


 あれだけじゃなかったのか、と舌打ちをしつつ敵を睨む。


 背後に見える馬の頭は文字通り鬼の形相を醸しながら樹を伝って追って来るが、幸いノルンの方が速いらしく距離は遠退いていくばかり。


 ――と安堵した瞬間。背後から別の鬼が木の陰から現る。


 ノルンは残存する全ての魔力を使って最大練度の〈魔力障壁〉を刹那的に発動させる。

 放たれた豪腕の拳を両腕でガードし、ダメージを最小限に押さえつつその場から吹っ飛び離脱する。


 現状、この森から脱失する手段はない。行けども行けども森ばかり、ノルンは同じ樹を何度か繰り返し通り過ぎていることに気づき、いよいよ抗し難い違和感に支配される。鬼が跳梁跋扈する伏魔殿に迷い込んでしまったと。


 そして、ノルンは休息を欲して樹の上方に張り付いていた。

 魔力が回復しない限り戦闘は避けたい。

 そんな思考で呼吸を整えていると、


「――――っ!」


 途端、口を塞がれ、咄嗟に腰のダガーに手をあてる。が、その手すらも押さえられる。


 ――――エル!


 後方を仰ぎ見れば、口に人差し指をぴんと立てたエルが背後からノルンを抱擁していた。


「あれはなんだ? 見たことない奴らがうじゃうじゃいる」


「ですね、私も聞いたことないです」


 気息を整えつつ、彼女は安堵し同意する。

 この森はおかしい。そんなもっともな違和感の中、既知の彼がいたことはノルンにとってなにより心強いことだ。しかしながら、無知が二人集まっても現状は変えられない。犠牲者が増えるだけなのかもしれない。


 そんな悪感が思考をよぎり、ノルンは頭を振る。きっと大丈夫だと、自身に言い聞かせるように。


「ノルン、〈魔力障壁〉だ。できるか?」


「できません、魔力が尽きてしまいました……」


 彼女の言葉にエルは軽く微笑み、できるなら上等だ、と小さく呟いた。

 すると、背中から伝わるぬくい感覚を彼女は得る。

 それは、高貴さを含む黄金の色彩。

 魔力はゆっくりと形を変えて複雑に絡まっていく。


 気づけば、ノルンの身体は〈魔力障壁〉に覆われていた。


「自分の魔力で安定させてみろ」


 言われて、ノルンは自身の僅かな魔力を絡めていく。ゆっくりと、先程の感覚と接続するように、美しく、高貴に。


 魔力は生命エネルギーであるため、他人に付与すれば免疫力や自己治療力を多少だが強化できる。しかしながら、通常他人の魔力を自由に扱うことはできない。魔力を自分のものに変換する術があれば可能だが、そこまでして他者から魔力を得る必要性はないだろう。得られる魔力より消費する魔力の方が膨大だろうから。

 しかし、他人の魔力ではなく、発動した魔法を接続して自らのものにするという手段であれば或いは。


「ほう、上出来だ」


 彼女はこんな状況だが、軽く笑みを見せる。

 弱気だった自分を払拭するように。

 そして、心の余裕が垣間見える。

 彼がいれば大丈夫だと。


「この空間は創りものだ。大方、空間支配で森の西側を覆っているんだろう」


「森をですか?」


 どんな化け物だ、それは、と再びブルーになるノルン。スキル効果の中には空間支配を可能にするものがある。それは魔眼などと同様に、極めて強力なものである。


「ああ、西の森とは森の西側のことだったようだな。村から見て西だ、森事態は元より繋がっていた」


 エルの言は正しく、森は一つである。元々は楕円形の巨大な森だったのだが、村人が切り開いてできた窪みに村をつくったという手前、三日月状の先端が膨らんでいるような形になった。森林資源豊富な東側と西側。村人による区別の仕方はいつしか森が二つあるという意味合いを含むようになった。


 西の森には立ち入るな。村長の言葉を額面通り受け取ったが、まさかあの魔物がこんな味な真似をするとは思いもしなかったと、ノルンは歯噛みする。


 西の森には強力な魔物がいるとエルは過去に言ったが、全くその通りであった。

 だが、これほど膨大な空間に影響を与えるという、圧倒的な化け物だとは夢にも思わなかった。そう思考したノルンは現状の深刻さに眩暈する。


「だが、十中八九殺害が目的ではなさそうだな。事実、ノルンが生きているんだから、そうなんだろう」


 戦闘において、敵の空間内で〈魔力障壁〉を発動できなければ基本即死する。しかし、殺害の意図がない場合はその限りではない。

 つまり、一時でも障壁を解いた彼女が生きているという事実から、この空間を作り出した敵は何かしらの目的があるということだ。


 それに加え、村人が蜃気楼で抜け出せなくなるという具体的な体験を知っているということは、抜け出す方法があるということ。


 エルはそこまで思考して、さらに考察を重ねた末――


「蜃気楼で外に出さないことを考慮するに、生贄かな」


 ――という結論を出した。


「ならば、問題はあるまい。生贄なら此処にいるんだから」


 生贄などいまさら用意しようがないと、そんな思考でいたノルンは自身の置かれている状況を再確認する。背後からぬくもりを感じ、心胆寒からしめる。彼の殺気は感じられないが、現在進行形で身体を押さえられているという事実に。


 生贄――――まさか、私を?


「――オレがなろう。敵が姿を表せばこっちのものだ」


 ノルンは慚愧に堪えずに赤面させる。フードによってエルにはバレていないと考えるが、もし見られていたら羞恥で死んでしまいそうだった。


「……ですが、どうすれば生贄を捧げることができるんでしょうか?」


 生贄とは生きたまま捧げるから生贄なのだ。つまり、特定の場所に生きた贄を奉納する必要があり、その場所を見つける方法は一見してないように思える。


「おそらく、最も霧の薄い場所だろう」


 空間の外側を覆っている霧は外側に行くほど濃くなる。そして、霧は入り込んだ獲物を蜃気楼の違和感を抱かせずに惑わせる。故に、絶対なる鳥籠と化す。

 それはつまり、空間の中心があることを意味している。空間支配は術者を中心にして展開されることが一般的だ。ならばそこが生贄を捧げる祭壇として適切らしい。


 エルはノルンを見つけるまで、空間内を隅から隅までくまなく調べていたが、それらしいものは見つからなかった。しかし、生贄としてならば敵の条件に当てはまり、そのなにかを見つけられるかもしれない。


 ノルンとエルはその場所へ向かうべく、颯爽と霧の薄い方へと飛翔する。


 エルの動きに驚きながらも、生贄としてエルが死んでしまうことはないのかと、ノルンは思考する。正直、二日という刹那の付き合いだが、彼女にとって彼は初めてのパーティーメンバーなのだ。死んでほしくないと考えるのも当然である。加えて、もう一人よりも遥かに頼りになる仲間なのだから。


 視線の先、馬の頭をした鬼が十字槍を投げてくる。

 それを避けつつ、高速で森を抜ける――。


 そこには、開けた場所があった。


 やはり生贄が正解か、と考察が的中した彼は地上へと降り立つ。遅れて彼女も。


「エル、本当に……」


 声が霞む。

 彼女にとって初めての経験だった。仲間に助けられるのも、託すのも。


 そんな中、悠揚迫らぬ足取りで中心へと歩いていくエルは音もなく剣を抜く。

 剱の中心は白色光で、外側にいくほど青白く鮮やかに変色していく光の剣。


 ――――途端、真っ白に染色された粘性の高い霧が彼の正面から吹き付けられる。滝のように滂沱と濃霧を浴び、彼女は目を細めてフードを押さえる。


 ノルンは白塗りに薄れていくエルの背中を見つめ、ある種の予感に打たれる。それは悪感ではなく、むしろ切望する未来への期待だった。


 彼なら大丈夫だと。

 きっと、どんな化け物でも勝利し戻ってくると。


 左右から牛頭馬頭が彼を襲う。

 それはたちまち斬殺され、霧へと還元する。


 ――――暗転。何事も無かったかの如く彼女は森にいた。

 暗闇の中、徐々に目が慣れていき、この場所が森であることを理解する。


 しん、とした時は進みだすように、彼女だけを独り残して。

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