死んだら驚いた

おじさん(物書きの)

少し不思議

 倒れている自分と、走り去る男を交互に見て、ああ自分は死んだんだなあと思った。見たこともない男だったから、あれが通り魔というものなんだろう。初めて見た。そんなことより、警察に通報しないといけないな、めんどくさいなあと、携帯電話を探していて気がついた。お腹に深々と包丁が刺さっている。ああ死んでいるんだった。これじゃ通報できないな。ため息をはき出すと肩を叩かれた。

「やあやあ、これは災難だったね」

「あなたは?」

「いやなに、ちょうどそこを通りかかってね」

「そうでしたか。どうも私、死んでしまったようで」

 男は私と倒れている私を交互に見て言った。

「お若いのにお気の毒です」

「大きな包丁……」

「痛かったでしょうなあ」

「あまり覚えていないんです」

「それはラッキーですね」

「ラッキーなんでしょうか」

「痛いよりいいでしょう」

「それもそうですね。あ、そんなことより。警察に通報したいんですけど、どうしたらいいんでしょう」

「まあ死んでるので、我々には無理かと。あなたの死体が発見されるのを待つしかないでしょうなあ」

「この通りって人通り少ないんですよね」

「大通りに出て人を連れてくるしかないでしょうな」

「そんなことできるんですか?」

「敏感な人なら、思いっきり腕を引っ張れば、何かあるなって反応してくれますよ」

「そうなんですか。色々ありがとうございました。大通りに行ってみます。では」

 腕を思いっきり引っ張る、か。うまくいくといいなあ。こんなこと初めてだからどきどきするな。ちょっと怖いけどこの人にしよう。

「えいっ」

「なんだよ、急に」

「あ、あの、どうも。えっと、こっちで私の死体を見つけて欲しいんですけど」

「ああ? あぁ、生きてる奴と間違えてんのか。いいか俺の足下見てみろ、影がないだろ」

「あ、本当だ。あ、私のも」

「それが生きてる奴とそうでないのとの見分け方だ」

「よく見ると影がない人って結構いるんですね」

「そうだな」

「成仏、しないんですか?」

「そういうのは天国いける奴らだけなんじゃねーの。大抵の奴は死んでもこうして普通に暮らしてるよ」

「そうなんですか。びっくりです」

「特別なことなんて何もないんだよ」

「それじゃあ、こちらでまた死んだらどうなるんでしょうね」

「え、あ、あ、おま、お前、そりゃ、タ、タブーなんだぞ」

「え、え?」

「こっちで死んだらとか言っちゃいけ、あ、ああ。しまった、俺までなんてことだ、くそ」

「言うとどうなるんですか?」

「し、死神が、あ、ああ……」

 背後の気配に振り向くと、ボロボロのフードを身に纏った骸骨が立っていた。

「あーどうもどうも。あなたとあなた、二名様ですね」

 私、どうなるんでしょうか。なんだか不思議なことばかりです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死んだら驚いた おじさん(物書きの) @odisan_k_k

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る