第52話 変わりつつあるダンジョン界隈
【そまりんカップルVS血骨鬼】の配信は、Dtube界隈だけでなく、社会的にも大きな影響を与えた。
というのも、今回の戦いを引き起こした〝
松本は俺達に捕縛されて共にダンジョンの外に出ると、誰かが通報していたのか、ダンジョンの入り口で待機していた警察に逮捕され、そのまま連行された。証拠はその所持品のカメラの中に収められており、カメラの中のSDカードにはこれまでの悪行がしっかりと収められていた。また、その後の家宅捜査で家のPCからもこれまでに殺したシーカー達の動画が見つかり、再逮捕へと至ったのである。殺した人数から鑑みて、死刑は免れないだろうとの事だった。
また、この無差別シーカー殺害動画事件はダンジョン・シーカー界隈にも大きな影響を与えた。なんと、今回の一件を受けて国がダンジョンの立ち入りを暫く禁じたのだ。
今回の事件で、ダンジョン内で当たり前に人間同士が殺し合う事案が発生する事を危惧した政府は、これまで治外法権の無法地帯としていたダンジョン内でも適応する法律を作る事を決定し、その法律ができるまでダンジョンの探索を禁じた。また、これに乗じて、今までは誰でも自由に行えるとされていたダンジョン探索にも、シーカーとしての資格を与えるとして、シーカーの管理や報酬を与えるシステム〝シーカーズ・ギルド〟も国が主導して作ろうと動き出している。
ダンジョンの中にある資源を優先してこれまで自由にさせていたら、いざこうして大きな問題が公になってしまったので、再発防止に踏み切ったのだ。これらの制定は急ピッチで進められているものの、ある程度固まって実行に移されるまでの間はダンジョン探索は一旦禁止とされている。
まあ、しょうがない。これまでむしろ自由にさせ過ぎていたのだ。国の怠慢と言わざるを得ない。銃などの近代武器が通用しない世界なので国もダンジョンについては匙を投げていたのだろうが、ダンジョンという場が人間同士の殺人に利用されるとなっては国も動かざるを得なかったのだろう。
そして──
俺と果凛、すなわち【そまりんカップル】はというと、極悪犯罪者逮捕の協力と称して市から感謝状を送られる羽目となった。それに加えて、学校の集会でも全校生徒の前で表彰されるという非常に恥ずかしい想いをしたのだ。名誉な事ではあるのだけれど、年頃の男子にはちょっと恥ずかしい。
ただ、その反面、もちろん良い事もあった。
俺達はその知名度と話題性、犯人逮捕や実力の実績も考慮され、まだ発足前ではあるものの、〝シーカーズ・ギルド〟のダンジョン・シーカーとしての仮免許が与えられたのだ。その為、探索禁止期間中もダンジョンに入れる事になっているし、表向きには出ていない情報だが、未探索エリアの解明には特別に報酬も与えられる事となっている。
ただ、有名になり過ぎてしまった弊害ももちろんあった。簡単に外を出歩けなくなってしまったのだ。
その為、約束していた
今が夏休み前の短縮授業でもうすぐ夏休みだから良いものの、これが平常授業だったらと思うとぞっとする。夏休みが明けた頃合いには落ち着いて欲しいものである。
さて、そんなこんなで驚く程日が早く進み、一学期は終わって夏休みに入った。
とは言え、俺は皆のように夏休みを楽しむわけでもなく仮免許を利用してダンジョン探索に精を出すわけでもなく……変わらず学校に登校して、補習を受けていた。
俺は一学期の大半を事故による昏睡──異世界転移の弊害っぽいが──で中間テストと期末テストを受けられていない。留年せずに済んでいるのは、担任が夏休みの補習での穴埋めを学校に掛け合ってくれたからだ。もちろん、この補習を一日でもサボれば留年が確定する。
こうして、進級の為とは言え、夏休みはほぼ毎日補習で学校に通う羽目となった。三か月休んでいた分を一か月と少しで何とかしないといけないから、それなりに大変である。
血骨鬼とのバトル配信でチャンネル登録者数は三〇万人に差し掛かり、多くの者達が俺達の次の配信を待ってくれているところ申し訳ないが、こちとら進級が懸かっている夏休み。夏休み期間の配信は諦めてもらう他ない。
「いつも悪いな、果凛」
昇降口で上履きに履き替えている果凛に、礼を言う。
彼女は補習なんて受ける必要がないのに、俺が補習を受けるなら、と一緒に補習を受けてくれているのだ。
果凛は柔らかく微笑んで言った。
「蒼真様と一緒に居れるなら、構いませんわ。それに、〈
「そのとーり……面目ない」
この通り、俺はそまりんカップルのバズのせいで果凛の魔法なくしては通学もできない状態になってしまっていた。
もちろんダンジョン・シーカーをやっている事も母さんにもバレてしまって、叱られた。ただ、母さんも現金なもので、これだけ稼いでいるよ、と稼いだ額を見せれば「なら良し!」とすぐに納得してくれた。
実績は正義である。これは大人になってからも役立ちそうだ。
しかし、どれだけ稼いでいても、どれだけチャンネル登録者がいても、補習は補習。今日も今日とて教室に入ると、担任の教師が俺達を待っていた。
担任は俺達を見るや否や、こう言った。
「お、来たか二人とも。今日は補習の前に、ちょっと校長室の方に行ってほしいんだ。校長先生が二人に用事があるらしくてな」
校長先生が?
一体どういう事だろう? やっぱりこんな特例で進級は認めない、お前は留年だ、と宣告されてしまうのだろうか。
「二人にという事は、わたくしもですの?」
「そうだ。何でも、【そまりんカップル】に用事があるらしいぞ」
担任の言葉に、俺と果凛は顔を見合わせ、互いに小首を傾げる。
俺と果凛に、ではなく【そまりんカップル】というところに含みを感じる。
これは、また面倒な事を任されるんじゃないだろうか……。
何となく嫌な予感を抱きつつも、俺達は鞄だけ教室に置いて、校長室へと向かったのだった。
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