第49話 元勇者&元魔王VS血骨鬼
大きさ四~五メートルの巨大な妖怪・血骨鬼との戦いが始まった。
俺と果凛は左右に散開するが、血骨鬼は俺には全く興味を示さず、「おなごおなごォッ」と躊躇なく果凛の方に行く。
一応こちらに攻めやすいように果凛より数テンポ遅らせて跳んだのだが、そういったフェイントは全く効果がないらしい。
「追い掛けて下さるのは嬉しいのですけれど、わたくし、節操のない男性は好みじゃありませんわ。消えて下さいまし」
果凛はふわりと宙に浮かび、ゴミムシでも眺めるかのような笑みを零しながら出会い頭に〈
狙いは違わず、〈
やったか──?
一瞬そう思ったが、煙の中で血骨鬼の影が一瞬動いた気がしたので、俺は慌てて果凛の方へと跳んだ。
予想通り、血骨鬼は煙の中から飛び出て、果凛を一直線に襲う。怪物の長い手が、果凛へと伸びた。
「いだだぎぃ──」
「させるかよ!」
間一髪のところで果凛と血骨鬼の間に入り、俺は剣で怪物の攻撃を防ぐ。
血骨鬼の攻撃は恐ろしい程に重く、身体ごと持って行かれそうになった。
「ぐぎい! おどご、いらねえ!」
「うるせえよ、変態野郎が!」
邪魔されたのが気に食わなかったのか、気色悪い顔をますます気色悪くして俺に追撃を加えようとしてくる。しかし、俺はひらりと骨による攻撃を空中で避け、避けざまに蹴りを顔面に放ってやった。
全力の蹴りを顔面にもろに受けた血骨鬼は、洞窟の壁に一直線に吹っ飛んでいった。
「油断いたしましたわ。ありがとうございます、蒼真様」
「大丈夫。でも、これまでの魔物とは別格だな。気を引き締めた方が良さそうだ」
崩れた岩の中から、まだまだ元気いっぱいな様子で起き上がった血骨鬼は、相変わらず気持ち悪い笑みを浮かべている。
そこらの魔物なら首の骨が折れて絶命しているはずだが、あまりダメージは負っていなさそうだ。
「もうちょっと慎重に戦おうか。とりあえず、あいつの力量を確かめてくるよ。果凛は魔法で援護を」
「ええ。任せて下さいな」
果凛は短く頷いて、それから自身の身体を魔力で覆っていく。その間、俺は剣を構え直してから、血骨鬼へと向かった。
血骨鬼は応戦すべく、怪我の手を振り上げてその高い背丈を利用して一気に振り下ろしてくる。その一撃は、空気を震わせるほどの力だった。
「ちぃッ!」
その攻撃を受け流すように剣を振ったはずだが、俺の剣が血骨鬼の爪に当たった瞬間、驚くほどの反発力が伝わってきた。
だが、俺のスキル〈
「だらぁッ!」
気合の声と共に爪ごと腕を弾き飛ばし、身体くるりと反転させて、後ろ回し蹴りを血骨鬼の膨らんだ腹に食らわせる。
「蒼真様!」
果凛の声が聞こえたと同時に俺が後方へ跳び上がると、彼女は追撃の〈
彼女の手から放たれた雷の如き閃光が、血骨鬼の体を打ち抜く。
「いでえ、いでえ! いでえのぎらい!」
血骨鬼は痛みに身を震わせ、怒りに満ちた眼差しを果凛に向けた。
だが、果凛はその整った顔とは不釣り合いな歪んだ笑みを浮かべると、臆する事なく次の魔法を唱える。
「痛いのは嫌ですの? では、冷たいのは如何でして?」
果凛の手から、水色の冷気が放たれる。
絶対零度に近い空間を創り出して相手の周囲を凍り付かせる〈
彼女の手から放たれた冷気は血骨鬼の巨大な体を凍りつかせ始めた。
「少々醜いのが難点ですけれど、このまま氷像にして差し上げますわ」
「ついでにこいつも食らわせてやるよ!」
その隙に俺は血骨鬼の腹部に剣を突き立てた。
剣は肉を貫き、骨をごりごりと削っていく。血骨鬼は雄叫びを上げて果凛の〈
しかし、氷化によって随分と動きが鈍っていた事もあり、剣を抜いてそのまま後方へと跳んで避ける。
「思ったより強いな」
「ええ。大したものですわ」
日本の妖怪恐るべし、といったところだろうか。
この妖怪が実在したとして、何の力もない状態でコレと遭遇してしまったらと思うとさすがに恐怖を感じる。〈
「腹減っだ……食いでぇ、食いでぇ!」
血骨鬼は俺達に休む間も与える気がないようで、すぐさま追撃を繰り出す。
全く、勘弁してくれよ。こちとらもう五時間くらいダンジョンの中にいるんだ。少しくらい休ませてくれてもいいだろ?
「人が話している最中はお静かに、ですわ」
会話を遮られた果凛が不愉快そうに言い捨て、〈
その炎の攻撃は血骨鬼の体を焼き、大火傷を負わす。だが、血骨鬼はそれを耐え、再び俺と果凛に向かってきた。その視線は怒りと殺意に満ちており、俺達は再び防戦一方となった。
果凛は魔法を駆使して血骨鬼の攻撃を避け、反撃を試みる。俺はスキル〈
視界の隅で、松本が嬉々としてカメラを向けているのが見えた。
──良い絵が撮れて、満足かい?
俺は内心で呆れながらも、目の前の血骨鬼に集中する。痛みよりも食欲が優先するのか、これだけ攻撃を受けても血骨鬼は全く怯まないのだ。
どうすべきかと思っていたところで、血骨鬼を見て俺はぎょっとする。
なんと、先程与えたはずの傷が塞がっていっていやがったのだ。
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