第47話 ボスの間
俺と果凛は破竹の勢いでそれ以降もダンジョンを進んで行った。
言ってしまえば、元勇者と元魔王という異世界では最強の二人がタッグを組んでいるのだ。雑魚エンカウントモンスターなんかに足止めができるわけがない。
二十九階層では階下に行く階段がなかなか見つからずに苦労したが、果凛が風に流れてきた血の匂いに気付いた事で、無事階段を発見。いよいよ、三〇階層である。
俺達は階段口の前で一旦立ち止まり、互いに視線を交わす。
「蒼真様、準備はよろしくて?」
「もう準備運動ならやり過ぎたぐらいだよ。とっとと変態マーダー動画野郎をお仕置きして、帰ろうぜ」
ARレンズ上に表示された時間を見て言う。
配信時間はそろそろ五時間に差し掛かる。地下九階層から二〇階層まで掛かった時間が二時間とすると、そこから三〇階層までいくのに更に倍近くの時間が掛かっている事になる。時刻で言うと午後九時だ。あまり遅くなると、母さんに心配を掛けてしまうので、なるべく早くに帰りたい。
「それでは、ご招待いただきました舞踏会に参りましょう。とっても楽しみですわ」
「さぞかし血生臭い舞踏会なんだろうな」
軽口を交わしてから互いに頷き合い、地下三〇階層へと向かう階段を降りていく。
これまでより長い階段だった。まるで、異空間へと移動しているような長さだ。
階段を降りる事一〇分と少し、足が疲れてきたなと思ったところで、三〇階層に着いた。
地下三〇階層は樹海とは全く異なる風景だった。
「……洞窟、ですの?」
「なんだか日本っぽい洞窟だな」
あたりを見回して、俺と果凛はそれぞれの感想を口にする。
日本のような洞窟と表現したのは、洞窟全体の雰囲気にあった。洞窟の壁に神社でよく見る
二十一階層の樹海ゾーンあたりからどことなく日本っぽい雰囲気を感じていたが、もしかするとダンジョンが存在する場所の地形・文化的背景なんかを受けているのだろうか? だとすると、二十六階層から姿を現した妖魔も、本当に日本の妖怪の類だったのかもしれない。
果凛が顔を顰めた言った。
「嫌な臭いですわ」
「同感だ。奥から、だよな」
「ええ」
洞窟の奥から漂う死の匂い。死肉と乾いた血が交じり合う、不愉快な臭いだった。
きっと、本来の日本では感じる機会もないはずの臭い。だが、俺達にとっては然程珍しいものでもなかった。あの場所──異世界テンブルクでは、よく漂っていたものである。
俺達はどちらともなく、洞窟の奥へと歩き出した。こつこつ、と俺達の足音が洞窟の中を木霊する。
三〇階層はこれまでの階層などのように横道や分かれ道などがなく、一本道になっていた。壁の
何となく、RPGのボス戦を彷彿とさせる光景だ。大体ゲームのダンジョンでも、ボス戦の直前は静かになる。それとに多様な雰囲気がここあった。
念の為、ARレンズでコメント欄を表示させておく。
たまに、視聴者からのコメントで気付きが得られて道があったり、俺達が見えてなかった敵に気付かせてもらえる事がある。視界にコメントが流れるのは鬱陶しい側面もあるのだが、役に立つ事もあった。
「……奥が見えてきましたわ」
「ああ」
暫く歩くと、洞窟の奥から光が漏れてきた。
どことなく赤い光で、明るくなってきているのに全く気分が晴れない。
俺と果凛は互いに目配せしつつ、光が漏れる方向へと歩いて行き──遂に中心部へと俺達は踏み込んだ。
洞窟の中心部に広がる空洞は、まるで世界の終わりを示すかのように静寂と暗黒に満ちていた。わずかにこだまする水滴の音だけが、あたり一帯の静けさを破っている。
洞窟の奥は広い空洞のようになっていて、天井も高かった。数多の蝋燭による灯で空洞内は明るいが、ゆらゆら揺れる蝋燭の炎がより気味悪さを演出している。先程の一本道から続いていた
「いきなり和製ホラーかよ」
俺は周囲に注意を払いながら、舌打ちをする。
樹海の中にある洞窟、祠を想定しているのだろうか。しっかりと日本みを取り入れられており、思わず辟易する。どこの日本好きのゲームクリエイターが造ったダンジョンなんだ、ここは。
落ち武者や侍でも出てくるんじゃないだろうな。織田信長がボスキャラだとかは勘弁してくれよ。
「それで? わたくし達をこんな薄気味悪い場所に招いて下さった狼藉者はどちらにおいでで? 招待しておいてだんまりというのは、さすがに無礼ですわ」
果凛が呆れた様子で嘆息する。すると、その声に応えるかのように、突如としてその静寂が破られた。
微かながらもはっきりと聞こえる拍手の音が、洞窟の奥深くから響き渡る。その拍手が静寂を引き裂き、そして不穏な空気を漂わせた。
祠の影から、ゆっくりと男が現れた。
その男はもちろん──〝
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