第二部
第26話 騒然とする学校
翌日、俺と果凛のふたりで通学路を歩いていると、いつもとは違う雰囲気を感じた。
普段は物静かな通学路が、今日は「あれ、そまりんカップルの二人だよね?」という感じのひそひそ声があちらこちらから聞こえてくるし、突き刺さるような視線も嫌という程向けられる。
その理由はもちろん、昨夜のダンジョン配信、
それもそのはずで……今朝起きてみれば、俺達〝そまりんカップル〟のDtubeチャンネルの登録者数は一日で五万を越えていたのだ。俺達が夕飯を食い風呂に入って眠っている間にバズりまくっていたようで、たくさんの切り抜き動画がUtubeの方に転載されているらしい。また、あまりの派手さにCGを疑われていたそうだが、有志による調査・解析によってCG疑惑が勝手に晴れていた。Dtubeの通知欄は完全にぶっ壊れていたので、通知をオフにしてやった。
まあ、完全に俺が制服を着ていたのがミスだったんだけれど。ARレンズでの一人称視点(FPS)の撮影で慣れてしまっていたから、服などあまり気にしていなかったのだ。まさか果凛の提案で三人称視点(TPS)視点での撮影が可能になるとは思ってもおらず、俺の制服はばっちりと全身が捉えられていた。果凛に関しては魔法礼装を纏っていたので紅いドレス姿だったが、あの
「何だか騒々しい朝ですわ。そんなに気になるのでしたら、声を掛けて下さればよろしいのに」
果凛もその視線に気付いて、うんざりといった様子だ。
魔王として配下から送られる視線などとは異なる好奇の眼差しをどう受け止めればいいのかわからないのだろう。
「声を掛けられたらそれはそれで面倒だから、まだいいよ……って、どうした?」
ふと隣を見ると、果凛がどこか嬉しそうにしていたので、訊いてみた。
「昨日言っていたチャンスをちゃんとものにできて、ほっとしていましてよ」
「ああ……そういえばそんな事を言っていたな。予想以上の結果だよ」
果凛と一緒に有名になるチャンス──俺がDtuberをやめようかと思っていたと漏らした際に、彼女はそう言ってくれた。
奇しくもそれが叶う状況が訪れて、見事そのチャンスをものにしたけれど……これはさすがに予想以上の成果じゃないか? 昨日まで登録者数〇人の底辺配信者だった俺からすると、この状況が信じられなかった。
周囲の視線をなるべく気にせず歩いていると、さすがに通学路では声を掛けられはしなかった。だが、校門をくぐると、学校はえらい騒ぎになっていたのだ。
多くの生徒が俺達に驚きと賞賛の視線を送り、騒ぎ立てる。
予想はしていたが、どうやら俺達の配信は全校生徒でも話題になってしまっていたらしい。
玄関で靴を上履きに履き替えたあたりからは、一斉にわっと寄ってたかってきて、もみくちゃにされた。
「昨日の配信見てました!」
「めちゃくちゃ凄かったです!」
「次の配信いつですか? チャンネル登録者しました!」
「大正フラミンゴを助けてくれてありがとう!」
「登場の仕方かっこよすぎたぞ!」
「バカ、フィニッシュもかっこよかっただろ!」
などもうしっちゃかめっちゃかだ。廊下に人が詰まってしまって、教室に行く事さえままならない。適当に質問をかわしつつ、もみくちゃにされながらも何とか教室に辿り着いた時にはどっと疲れが溜まっていた。
教室につけばもう安全だろうと思いきや──そうはならなかった。クラスメイト達が一斉に振り返り、一瞬静まり返ったかと思うと、すぐにわっと歓声を上げて熱狂的な拍手で迎え入れられた。瞬く間にクラスメイト達に囲まれて、先程までと同じ状況が出来上がってしまう。
「俺、昨日配信みてたよ!」
「え、冴木ってあんなに強かったの⁉」
「風祭さんも可愛かったよ~!」
「可愛いだけじゃないよ! ドレス着て戦うとかかっこよすぎた!」
「てかふたりって昨日付き合いはじめたんだよね⁉ それでいきなりカップルチャンネル立ち上げたの⁉」
「最後の連携技マジで痺れた! もうアニメとか見てらんないわ!」
クラスメイト達からも矢継ぎ早に質問が重ねられたが、全部に答えられるわけがない。
席まで移動しても、俺達は隣り合わせの席であるので、今度はそこに人が集まってしまってしまい、始業までは結局そんな騒動が続いた。担任教師が教室に入ってきて収まるかと思えば、職員室でも既に話題になっていたようで、「さすがは私のクラスの生徒です!」だなんて言い始める始末だ。もう勘弁して欲しい。
「いかがでして?」
授業が始まってから、果凛が小声で尋ねてきた。
彼女は教科書を持っていないので、俺のものを見せてやっているのだ(もちろんただ机を寄せるだけでも冷やかされた)。
「何がだよ」
「有名人になった感想、ですわ」
彼女の声はどこか弾んでいて、楽しげだった。きっと俺が疲れているのを見て面白がっているのだろう。
「……制服のままダンジョンに行った事を後悔しているよ」
「それは、蒼真様の所為ではなくて?」
「だから、後悔してるっつってるだろ」
そんな会話を交わしつつ──果凛は机の下にこっそりと左手を忍ばせ、そっと俺の右手を握った。
これがバレたらまた冷やかされる。それはわかっているのに、その手を振り払う事ができなくて。俺はただ、窓の外の景色へと視線を逃がしたのだった。
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