第8話

「斉原さん...?」



俺は、崖っぷちの葉月の腕を引いた。



「......ぅ...」



大粒の涙が、頬を伝っていた。


葉月は座り込んだ。

救い出してくれたあの顔が泣き崩れているのを見るのが嫌で、俺は彼女から目を逸らした。


俺はただ、彼女の背中を撫でてやることくらいしかできなかった。



落ち着くまでには、時間があるだろう。

俺も、突然のことに困惑している。

少し状況を整理したい......



...そもそも、なぜ彼女は、あの時屋上に来たんだ?俺が自殺を決意したあの日のことだ。


あの日は確か、平日だったはずだ。

それだけじゃない。真昼間だった。


葉月くらいの歳の子供はみんな、学校に行くんじゃないのか?

それとも、偶然休みだっただけか?

いや、それから何日も来ているんだ。

学校側からそんなに休みを設けることなど、ありえないだろう。



だとしたら、なにか別の理由があるのか?



さっき見た彼女は、その歳にしてもう、この世の不幸の多くを経験してしまったような......

そんな絶望にまみれた顔をしていた。


それに自殺なんて図るほどだ。

彼女にも、想像しえないような辛いことがあったのだろう。


だとしたら、それが原因で、不登校になったか、

もしくは、休まざるを得ない状況になってしまったか...


そう考えるのが妥当だろうな。


俺は、あの時彼女に命を救われた身だ。


それに、俺は葉月のことを、

何故だかはわからないが、

どうにもただの他人とは思えないんだ。





俺は、彼女の話を聞いてやりたい。


放っておけない。


ここで離したらいけない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る