夏に潜る

百目鬼 祐壱

夏に潜る

「去年より暑くない?」君のそれ聞くのは何度目かあと何度か



夏の扉が開いてしまった 戦慄の黒い閃光、六畳間を駆け巡り



扇風機にああああってやって切り刻まれちゃったああああをちょっと悼む



綿雲と戯る海獺ラッコのすぐ横をジャンボジェット通り過ぎ



ごめん昨日が夏至なのすっかり忘れてた 今年の夏は白夜となります



結露が我慢できないのそう言って月に引っ越したあいつは元気だろうか



湿度100%は水の中ってこと?違うよ人が人でいられなくなること



あの頃はやぐらの上でつつみ打ち今はねぐらで鼓笛聞くのみ



タイに行きたかった人には朗報です今宵はまるでバンコクの熱帯夜!



夏蜘蛛は汗にまみれてからみあう水飛沫跳ねるその美しさよ



冷やし中華は頼めないんです過大評価とツイートした手前



びいどろを口に含みて幽かなる檸檬の香りをあの子は求めん



俺が十五のころ逝ったはずの祖父と麦酒を飲んだ記憶があるここ神宮で



たまやとか叫ぶ勇気はまるでないそんな二人の尺玉爆ぜる



俺のかたき討ったお前の手中で藪蚊みごとに超新星爆発



みんなそんなに海が好きじゃないと知って大人になりました僕は



あどけなきテロリストたちの要求は八月三十二日の領有権



プール後のミロで微睡まどろみ迷い込みあの頃の夢に今も私は



線香花火こぼれ落ちた儚さで焦土と化した大都市東京



「九月の海も賑やかじゃん」そう言う君の袖はすでに長く

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