第15話 錬金

 フィーネとパーティーを組んで二週間が経過した。この二週間で俺たちは毎日たくさんの依頼をこなし、俺は鍛錬も頑張っている。

 そのおかげで確かに体力はついてきているし、お金も貯まった。買いたいと思っていた剣は真っ先に購入し、つい先日には錬金道具も最低限必要なものは買い揃えられたところだ。


 そんな俺たちは明日の朝から昇格試験を受けることが決まり、前日である今日は体を休めるための休息日とすることになった。


 休息日に俺が何をするかというと……もちろん錬金だ。フィーネも錬金を見てみたいということで、俺の部屋にラトを連れてやって来ている。


「錬金って初めて見るから凄く楽しみだよ」

「身近に錬金工房で働いてる人がいない限り、目にする機会はないよな」


 買ったきりでまだ一度も使っていない錬金道具をテーブルの上に取り出して、必要なものを並べて準備していく。久しぶりの錬金だからか、準備しているだけでとても楽しい。やっぱり俺は錬金が好きなんだな。


 使う予定の素材なども全て並べてから、テーブルに備え付けられている椅子に腰掛けた。フィーネはラトと一緒にベッドだ。


「じゃあ始めるな。錬金はまず、魔石を水に溶かしていくんだ」

「魔石が水に溶けるの?」

「ちゃんと手順を踏んで失敗しなければ溶ける。魔石の種類はなんでもいいけど、大きくて色が濃い魔石の方が出来上がったものの品質が良くなりやすいかな。今回は俺が変質させたホワイトディアから取れた魔石を使うな」


 俺はフィーネに魔石を見せてから、ユスラウという葉でしっかりと魔石を包み込んだ。包んだ上から紐で縛って、準備しておいた蒸し器に入れる。


「これで十分ほど蒸すんだ。その間に錬金釜を準備しておく」


 錬金釜は鍋とかでも代用できるけど、錬金がしやすいようにと考えて作られた釜の方がやりやすいから、今回は奮発して購入した。

 

 釜に準備しておいた濾過済みの水を注ぎ、蒸し器の隣で火にかける。


「この簡易コンロ、火の調節が細かくできるんだね」


 フィーネが簡易コンロにつけられたつまみをじっと見つめて、楽しそうな表情を浮かべた。


「もしかして、錬金用の簡易コンロなの?」

「基本的には錬金用だけど、料理人にも好評らしいよ」

「へぇ〜。確かにこれならお肉とかも美味しく焼けそうかも。これって魔石はどのぐらい消費する?」

「うーん、小さな石でも数十時間はいけるんじゃないかな」


 コンロは魔道具の中でも比較的魔石の持ちがいい方だ。特に錬金では火力を弱くして使うことが多いから、魔石の減りは少なくなる。


「そのぐらいなんだ。それなら街の外でお昼ご飯を食べる時に使っても良いかもね」

「確かにありだな。パンを焼き直したら良さそう」

「今度やってみようか!」


 そんな話をしていると錬金釜の中から湯気が立ってきたので、俺は火力をさらに弱めた。錬金釜の中のお湯は、人が触っても辛うじて火傷しない程度の温度に抑えないといけないのだ。


「じゃあもう少し蒸すのを待つ間に、リール草を刻んでいくな。これは後で魔石と混ぜるんだ」


 しっかりと乾かしたことでパリパリとした質感になっているリール草を、とにかく細かくなるようにナイフで刻んでいく。ちなみに今日使う素材は、もちろん全て変質済みのものだ。


「乾燥してないといけないの?」

「いや、採取してすぐのやつでも問題はない。ただとにかく細かくすることが大切だから、乾燥させてないと難しいんだ」


 細かく刻んだリール草を分厚い布の上に載せ、そろそろかなと思って蒸し器の中を覗いた。すると鮮やかな青色だったユスラウの葉が真っ白になっている。

 これが蒸し終わりの合図だ。


「こんなに綺麗な白になるんだ。面白いね……」

「次はこれを取り出して、ユスラウの葉から魔石を取り出す」


 この工程は熱すぎて直接触れないので、火バサミやトング、ピンセットなどを使って上手く魔石を取り出していく。

 取り出した魔石はリール草を置いた布の上だ。熱いうちに次の工程を済ませないといけないので、急いで準備を進めないといけない。


「次は布の中で魔石を叩き割るんだ。こうして布で包んで、ハンマーで叩く」


 熱された魔石はかなり脆くなっているので、そこまでの力は必要ない。カシャン、カシャンと魔石が砕けていく音と感触が結構好きな工程だ。


「そんなに軽く割れるんだ」

「うん。魔石に染み込んだユスラウの葉の成分と熱で綺麗に割れるらしいよ」

「リール草はなんのために入れてるの?」

「俺も詳しい原理は知らないんだけど、ここでリール草がないと全てが均等に綺麗に割れないんだ。リール草が入ることで、魔石がサラサラとした細かい砂みたいになる。リール草が持つ吸着性によるものだって話は聞いたことがあるけど……俺にはこれ以上の説明はできないかな」

 

 錬金は手順が多くて覚えることが山のようにあって、原理まで突き詰めようとは思わなかった。

 俺は原理よりもたくさんのレシピを覚えるのが好きだったのだ。それから新しいレシピを作り出すのも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る